にじゅろく。 ページ27
アイが短刀を持って部屋の前まで戻ると、そこに一期と鳴狐が待っていた。
2人はアイの腕から血が流れているのを見て、お互い顔を見合わせた。
「ややっ審神者殿!
腕は大丈夫なのですか!」
『(狐が喋った…)』
ぱちくり、と瞬きをした後アイは腕を伸ばした。
霊力で酷い傷を負い、血が流れている腕に紅い蝶が1匹2匹…と集まってきた。
暫くするとその蝶は離れていき、腕もすっかり元通りになっていた。
「……君は、人間ではないんだね…」
『言った覚えないけど』
「審神者殿、ご一緒しても宜しいでしょうか?」
『ご自由に』
断る理由もない為、アイは部屋に入った。
主寝室の奥、死角にある襖ではなく扉を開けた。
後ろに続く一期と鳴狐は寝室を見て驚いている。
「和室ではないのですね…。
…一つ一つが高価なのか…」
「……そうかもね」
アイが入った部屋に行けば、彼女は日の当たる場所に短刀を置いた。
そしてまた紅い蝶を1匹留まらせひと撫でする。
一期は少し躊躇ったが、アイの隣に座って短刀を撫でた。
「…信濃」
嬉しいような悲しいような表情を横目に、アイはさっさと部屋を出た。
鳴狐は彼女を見送り、一期の隣にしゃがんだ。
ーーーーー
部屋を出たアイはまた下に降りていく。
「あ荊だ、やっほー」
「荊?
ああなんや、審神者の名前か」
「どこ行くの?」
ばったり会った蛍丸と明石の手には軍手があった。
『(畑か)』
「審神者はんて昼は何してはるん?
よう考えたら滅多に見ぃひんけど」
「見習いが来てからは出てきてるよ」
アイが2人をスルーして廊下を歩いていくと、厨から女の賑やかな声が響いてきた。
『…何してんの』
「!
審神者」
「審神者さん!」
『手入れは?』
「て、手入れ?」
『出陣した奴らの手入れしろって言われてたでしょ?
ここで何してんの』
「わっ私手入れの仕方分からなくてぇ〜」
『分からない?
じゃあここに来てから今まで何してた訳?
加州清光がいればいつも教えてもらえるとでも?
あんたの頭はお花畑なの?』
「ひぃいっ」
アイは見習いの手首を掴み、シンクに押しつけると包丁を取り出した。
「きゃああああああっ⁉︎」
「ちょっ審神者ストップストップ‼︎」
側にいた燭台切が急いでアイの腕を掴んだ。
『あたしに触らないでくれる?』
「君が包丁離したらね‼︎」
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作者名：せーら | 作成日時：2022年8月14日 10時
