じゅいち。 ページ12
小夜 side.
目が覚めると、兄様達はまだ眠っていた。
障子を見ると日が昇ったばかりのようだった。
静かに廊下へ出るとびっくりした。
景趣が変わっていたから。
「……」
見たことない景趣だから、最近のものだろう。
庭の至る所に秋桜が咲いていた。
桃色、白、紫ととても綺麗だった。
小さく風が吹いた後、視界に紅い蝶が庭に飛んでいた。
縁側にあった草履を履いて庭へ降り立ち、その蝶を追いかける。
「……!」
追いかけていくと、池の近くで秋桜と同じような紫の髪が見えた。
…審神者だ。
昨日、初めて審神者を見た。
昨日顕現したばかりの太鼓鐘さんに引き摺られていたけど。
多分あの人は、悪い人ではないと思う。
『…』
視線に気付いたのか、顔だけを向けてその後また同じ方向に戻した。
花を見てる。
……好き、なのかな。
近づいても何の反応も無かったから、少し間を空けてしゃがんだ。
その人は膝に腕を重ねて秋桜を見ていた。
「…花、好きなんですか?」
『……、さあ』
審神者は、プツ…と秋桜を一輪摘み取った。
『……見てると、すごく悲しい』
サァアア……と風が吹き抜けた。
その人の目には悲しみの感情が宿った気がした。
「そのような格好をしていては風邪を引きますよ」
パサ…と僕と審神者に羽織が掛けられた。
後ろを見ると兄様達がいた。
「兄様…」
「…貴女も、身体が冷えてしまいますよ」
江雪兄様が審神者にそう言うと、彼女は立ち上がった。
『ふぁあ〜…』
「全く、あなたは夜行性なのでしょう?
だったら早く休みなさい、またこんのすけが騒ぎ出しますよ」
こんのすけという名前を聞いた瞬間、面倒くさそうに顔を歪ませた審神者は秋桜を片手に歩いていった。
『来たら埋めてやる……』
……意外と物騒なことをいう人だな、と思った。
(……さあお小夜も)
(うん)
(あの審神者、意外と子供っぽいのですね)
(……寝よ)
(主ーっ!)スパンッ
(おやすみ貞くん)
(何でだよ!)
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作者名：せーら | 作成日時：2022年8月14日 10時
