ろくじゅうさん。 ページ19
薬研 side.
よぉ、俺っち薬研藤四郎だ。
兄弟共々宜しく頼むぜ。
俺っちの本丸は、まぁ以前は所謂ぶらっく本丸だったんだ。
初代が病気で死んだ後、代わりに来た奴からここは変わった。
今は前任のおかげでなんとか通常本丸として機能しているが、ここだけの話…前任が来る前は長い間は審神者も置かれず何十年も放置されていた。
放置されていた時、その中で唯一人型を保てていたのは…。
『あははっ意外に踊れるんだね!』
「はい一回てーん!」
「鯰尾兄と雪姉すごーい!」
「一度見ただけで踊れるなんてすごいです!」
その時、唯一人型を保てたのが今鯰尾兄と"わるつ"なるものを踊っている雪姉だ。
たった一人、この広い本丸で。
霊力が途絶え、荒れ果てたこの本丸で。
空気も悪く、決して明るくない暗い場所で。
何十年も一人で。
俺っちが刀を戻ってからのここの暮らしは何となく覚えてる。
眠っている時が多かったが、起きている時は霊体のような姿で雪姉を見守っていた。
仲間がどんどん刀に戻っていき、一人になった日から雪姉の目から光が無くなった。
「雪姉っ、僕も踊りたい!」
『いいよ、乱はやっぱり女の子のほうかなー』
「いいのっ?」
「足を踏んではダメですよ!」
「分かってる!」
鯰尾兄と踊り終わると、見ていた乱と雪姉が踊り出した。
…すぐに乱が足を踏んでしまったが。
側で見ている鯰尾兄は楽しそうだ。
再び機能し出した本丸で1番顕現が遅かったのは、鯰尾兄と骨喰兄だ。
二人以外は部屋で雪姉が大切に管理してくれた。
因みに重症だった刀達を、地道に遠征や出陣で資材を集めて軽傷にまで回復させてくれたんだぜ。
審神者じゃないから完璧には治せないが。
大事な片割れ達を、雪姉は簡単に手入れ、顕現をさせなかった。
雪姉は、二人が大好きなんだ。
二人も雪姉が大好きだ。
まぁこの本丸のみんな、雪が大好きだがな。
笑えないが、三日月や明石は折られないことを祈るしかない。
「あ、薬研君」
「お?
何だ、大将」
「ここ書き忘れてるから今いい?」
「おっとすまねぇな」
新しい審神者、この人間は鯰尾兄が好きだ。
本人は知らないだろうが、周りも多分分かってる。
悪い人ではない、かと言って前任みたいな良い人とも呼べない。
来たばかりだしな。
「ほい」
「ありがとう」
(ごめん雪姉ぇ〜!)
(謝ることないよ、楽しく踊ろ?)
(うん!)
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作者名：せーら | 作成日時：2021年4月18日 22時
