ごじゅうはち。 ページ13
「俺達に、何の用ですか」
香奈の手を掴んだのは、鯰尾だった。
香奈は驚いて手を引こうとしたが、ｷﾞﾘｯと握られている為逃げられなかった。
「な、鯰尾君…!
起きてたの…?」
「起きました。
それで、俺達に…雪に…何の用ですか」
顔は伏せている為、表情は香奈から見えない。
そして香奈は鯰尾ならと思い、手入れの事を話し出した。
「それでっ心配だから来たんだけど」
「……戻ってくれませんか」
「…ぇ」
「……この部屋から、出てくれませんか」
「鯰尾君……」
「俺が、手を出さないうちに、戻ってくれませんか」
「でもっAちゃんが傷だらけで嫌でしょ⁈
傷だらけの顔より、綺麗な顔のほうが良いでしょ⁈
みんなだって心配してるし、変な迷惑かける前にっ…」
『うるさいっ‼』
いつの間にか大声になっていた所為か、Aが突然声をあげた。
「きゃっ」
ドンッと押されて、香奈はAに押し倒された。
『私に何するつもりだったの何をさせようとしていたの⁈』
「なっ何もっ‼
ただ手入れしようと思って‼」
『手入れなんかいらない‼
こんなもの暫く経てば治るのよ‼
手入れって言って私の意識を奪うつもり⁈』
「そんなことしない‼
ほんとに手入れしようとしただけ‼」
『信用出来るとでも思ってるの⁈』
「っそうやってずっと疑うなら一回やってみたらどうなの⁈
ずっと否定し続けて何か変わるの⁈
迷惑とか思わないの⁈
みんな心配しているのが分からない⁈」
香奈とAの言い争いが聞こえて起きたのか、隣の部屋にいた粟田口達が慌ただしく部屋に入ってきた。
「何やってんだ大将‼」
「わあー駄目だよ‼」
「姉さんっ落ち着いて下さい‼」
短刀達が2人を抑えていく。
「雪姉体調まだ良く無いんだから暴れちゃダメだよ‼」
「大将もっ相手は病人だから‼」
「もうっ手っ取り早く手入れ"受けなさい"よ‼」
香奈が叫んだ瞬間、Aの体がﾋﾞｸﾝｯと揺れ、それを見た兄弟達は固まった。
言霊だった。
香奈が無意識に言霊を唱え、受けたAはゆらりと立ち上がった。
「雪、姉…!」
Aを抑えていた乱が震える声で彼女を呼んだが、声は届かず香奈の前に跪いた。
いきなり大人しくなったAに吃驚しながらも、安心したように手を前に出した。
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作者名：せーら | 作成日時：2021年4月18日 22時
