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山田side
...
「杉浦凛花役、伊野尾慧です。まだまだ女優として至らない部分が沢山あるとは思いますが、この映画が大成功で終われるように精一杯取り組ませて頂きますので、ご指導いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。」
_____________初めて彼女と向かい合った時、なんて下手くそに笑う女なんだろうと思った。
『大物キャスト陣との顔合わせ』に対する極度の緊張からか、ガタガタとみっともなく震えている手をもう片方の手で必死に押さえつけ、淡い桜色を纏う唇を吊り上げながら、自分より10も20も上の俳優達に出来損ないの愛想笑いを振り撒く姿は、はっきり言って酷く滑稽に見えた。
胸元が大きく開けた白ニットも、ボディラインがよく分かるタイトめのスカートも、緩りと巻かれた柔らかそうな栗毛も、大方事務所からの指示で言われるがままに用意してきたんだろうが、まさか自分の装いがあからさまに監督の好みドストライクのもので、上層部から遠回しに枕営業を催促されているだなんて、このアホ面の女は全く気がついていないのだろう。
「山田さんも、よろしくお願いします。」
「……ええ、」
否、気がついたところで、だ。
どうせポッと出の女優気取りアイドルなんて、自らの人気が衰退しないようそのうち手段を選ばず足掻き始める。自分の手が届く範囲の物は全て利用し、この業界から切り離されない為だけに体どころか他人まで売り出すに決まってる。そういう奴らにとってこのタイミングでの枕はむしろ好都合じゃないか。
どんなに清純と謳っているアイドルでも自分の利益の為ならどんな男にも脚を開いているのが現実だ。そこに秩序や矜持なんて物は一切存在しない。
だからこそ類の人間に対して不用意に近づいたり、どんなに些細な情報だとしても他言するのは自 殺行為に他ならず、ましてやプライベートで相手方に深入りするなんて以ての外。
毒華と分かってそれを摘むのは馬鹿のする事だ。
「________おい、そこの不細工。」
驚きと不信感に染まった瞳が振り返る。
正面からまじまじと見たその顔は今まで出会った女とは比べ物にならない程端正で、彼女の顔に施されたメイクですらその美しさを邪魔しているように見えた。
この女も最後まで綺麗なままではいられないだろう。
あと数日もすれば、まるで初めから決まっていたかのように悍ましい本性を現すのだから、彼女だけは違うかもなんて下手に期待するだけ無駄。先に見切りをつけ、僅かな希望を根から刈り取ってやるのがせめてもの敬意と優しさだ。
この業界では、血も涙もない存在でいる事が一番の自衛なのだから。
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作者名：ひまちぃ | 作成日時：2023年3月2日 23時
