10 ページ11
伊野尾side
...
「伊野尾さんお疲れ様でした！」
「お疲れ様でした〜！お先に失礼します！」
浜辺での撮影から約5ヶ月。
あれからも山田さんは飽きるどころか、最早一種の執着めいたものを感じさせるくらいの勢いで私への嫌味を唱え続け、どこにいようとも毎日欠かさず四方八方から投げつけられるそれに、怒りを通り越して呆れさえ感じていた私も、今では何だかんだこの状況を楽しんでいたりする。
今日も今日とて、初っ端から容赦無く降り注がれた暴言の猛攻を躱しながら撮影を終え、全身に伸し掛かる疲労感に、「くあ」と噛みしめるような欠伸をひとつ零して楽屋を出ると、不意に背後から伸びてきた白い腕が私の肩を捕まえた。
「おい」
「ゔっ、おぉ！！？……っびっ、くりしたぁ…… 」
「……なぁ、あんたさ、柏木さんと仲良いの？」
「え、なんですか急に……。 」
「っ、答えろよ」
ぴしりと硬直していた身体の感覚が徐々に解けていく。
振り向いた先にいた山田さんはいつもと同じような顰めっ面で、唯一妙に違和を感じたのは、普段は良くも悪くも物事をはっきりと言ってのける筈の彼が、言葉の節々から変な焦りを滲ませていたこと。
体の横で緩く握っていた拳を一層強く握り込み、見様によっては何かを躊躇っているようにも見えるその仕草に、私は思わず不審の眉を寄せた。
「そ……りゃあ、尊敬はしてますけど。」
「飯行くって話してなかったか。」
柏木さんは共演者の中で一番俳優歴が長い役者さんだ。何もかもが初めてで戸惑ってばかりの私にも、積極的に声掛けやアドバイスをして下さった心から尊敬できる業界の先輩。
この環境に慣れてきてからも何かと私を心配してくれているらしく、さっきも現状報告を兼ねて明日の仕事終わりに飲みに行こうという話を持ち掛けられた。私もお世話になった方からの誘いならば断る理由もないだろうと確かに二つ返事で承諾したが、その事実がこの男にどう関係あると言うのか。
「……しました。でも、なんで山田さんが、」
「関わるな。」
「は？」
「柏木とは関わるな。」
「……なんで」
「それは……ッとにかく、あの男と必要以上に親密になるんじゃない。あんな立場の業界人があんたみたいなぽっと出のアイドルなんかに無条件で優しくしてくれているなんて甘ったれた発想はいい加減改めろ！！」
「はぁ、？……っあの、今日本当にどうしたんですか________い゛ッ、」
勢い良く掴まれた肩にギリギリと力が込められる。
数時間前まではいつもと同じ嫌気を纏わせつつも和らいでいた活気のある彼の瞳が、もどかしい怒りと僅かな悲哀に揺れているのを確かに感じ取っていた。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 374人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひまちぃ | 作成日時：2023年3月2日 23時
