8 ページ18
伊野尾side
会場内にピンとした空気が張り詰める。
それはもう『怖い』以外の何者でもなくて、そんな雰囲気の中でまともに晒された指先は、俺の気持ちを代弁するかの様にその体を震わせた。
俺の手を握る山田の手にも強く力がこもる。
こんなにリスクの高いことをしているのだ。
彼だって緊張しないはずもない。
だけど、
「僕、山田 涼介と伊野尾慧は、」
……だけど
「3年前から、交際しています。」
＿＿＿＿＿＿我慢できなかったんだ。
この小さな世界で育てていくには、俺たちの愛は重過ぎた。
だから、俺は……否、山田だってきっと願ってしまったのだ。どう思われたっていいから、俺たちの関係を知って欲しいと。
愛を囁き会うのを許して欲しいと。
唇を寄せ合うことを許して欲しいと。
自分たちの立場を理解しておきながら、俺たちは2人だけの関係を誓ったあの瞬間からそう願わずにはいられなかったのだ。
ざわめきが、まるで氷の中にでも閉ざされた様に、冷たく冷たく、凍り付いて静まり返る。
歓声だって、悲鳴だって何一つも起こらない会場は、心臓に陰鬱な圧迫感を齎した。
「……そしてつい先日。僕から、伊野尾に結婚を申し込み、僕たちは正式にパートナーとなりました。
伊野尾には、ジェンダーフリーのウエディングドレスを、皆さんに知ってもらう為のモデルをやって欲しいと頼んでいますが、それは建前で……これは僕が用意したサプライズの様なものです。
……そうですね。言うなれば、
“ 結婚式 ” というものでしょうか。」
その言葉にバッと彼の方を振り向けば、山田は泣きそうに、でも優しく微笑んで俺に向き直った。
ファンの人達がそんな俺たちの様子を息を呑んで見ているのが伝わる。
「伊野尾ちゃん。俺さ、どうしても自分の中でケジメを付けたくて。事務所に協力してくれって頼み込んだら、上の人が動く前に先輩達や後輩達の方が先に『俺達も協力する』って言ってくれて、今日この場を設けて貰ってさ……俺、こんな幸せな事って……もう訳わかんなくなるくらい……嬉しくて堪んないんだよ。」
「……っ、」
「……改めて、俺たちの大切な人たちの前で言わせて欲しい。
___________伊野尾慧さん、俺と結婚して下さい。」
思わず両手で顔を覆う。
掌に温かいものが伝うのが分かった。
開こうとした唇がどうしようもなく震える。
もし答えてもいいなら。
それが許されるのなら。
俺は、
「__________お願いします……！」
喩え全世界を敵に回してでも、
この人と共に居たいと思った。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 315人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひまちぃ(プロフ) - あやかさん» 了解しました！！今あるリクエストから順を追って応えていきますので、近いうちには更新することができると思います！！気長にお待ちいただければ幸いです。 (2022年4月18日 22時) (
レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - コメント失礼します。ここで、誓おう。とても良かったです！もし良かったら、ここで、誓おうのym×inのその後を書いて頂けないでしょうか？よろしくお願いします！ (2022年4月17日 17時) (レス) id: a32468be8f (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ふぅいさん» いつも読んでいただいてありがとうございます！！昨日無事に中学校を卒業致しました。遂に高校生……忙しくなるとは思いますが、これからも小説投稿を続けていきますので応援よろしくお願い致します！！ (2022年3月8日 10時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ふぅい - 受験お疲れ様でした！！そして受験期間中､お忙しい中でのお話投稿ありがとうございました！ひまちぃさまのお話が本当に大好きでいつも投稿を楽しみに色々頑張れてます。ありがとうございます。これからも楽しみにしております！本当に大好きです！！！ (2022年3月7日 22時) (レス) @page50 id: 85477ac2f6 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - なるみさん» ありがとうございます！！なるみさんいっつもコメントくれて嬉しいです！！これからもどうかご愛読くださいね！！ (2022年2月21日 23時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひまちぃ | 作成日時：2022年1月4日 9時
