17 ページ19
伊野尾side
「いのちゃんが、さき」
シン、と辺りは一気に静まり返って、みんなの瞳に胡乱の色が一層強くなった。その強い視線は俺と知 念の間を行ったり来たりしている。
「……なんで」
「いいから行って」
「だからさ、なんで俺が、」
「行けってばッッ！！」
知 念が見せた、いつになく真剣な表情に、文句を言う奴は誰一人としていなかったけど、確実に周りからは可笑しく見えた筈だ。
そんな感情を表情で表すように、みんなが『なんで』といった顔を並べているのを横目で見遣う。
「……ゆうてぃー、その方が嬉しいと思うから」
そっと寄せられた唇から、俺以外に聞こえない様に耳元で囁かれた言葉に、心臓の奥が痛く疼いたのを漠然と感じた。
「来て」
ほんの少しだけ苦しげな面持ちで、俺の手を取る知 念。俺はそんな彼に引かれた腕に逆らえぬまま、部屋の入り口の前に立った。
後ろからみんなの視線を感じながら、俺は足を部屋の中へと一歩進める。
酷く湿っぽいのに唇が乾く様な空気や、独特のツンとした匂いが鼻を掠め、意図せずとも握った拳の中には汗が滲んでいた。
……室内をひとつ見渡せば、ゆうとの枕元には1人、警察関係者の方が立っていて、俺を見るなり深々と土下座でもするかのような勢いで頭を下げる。
一言で言うならば、異様な雰囲気だった。
殺風景な部屋の中で、まるで感情がない謝罪を繰り返す人と、彼の身長にしては余りにも小さ過ぎる真っ白なベッド。
こんな大きさでは、明日の朝にでもあの子が身体中痛そうにしながら恨みがましそうな目でキッと睨みつけてくるに違いない。
そんな光景を頭に思い浮かべながら、ベッドにふんわりと被せられた気持ち悪いくらいに真っ白で、どこか無機質な薄い布に手を掛けた。
「……ふ」
現れたその物体に、俺は『なぁんだ』と小さく鼻を鳴らす。
衝撃など無い、ショックを受ける必要だって無い。
先程から無性に体の芯が冷えていくのだって、絶対にこの気持ち悪い雰囲気の所為なのだから。大丈夫。
“ コレ ” はゆうとではない。ゆうとは帰ってきてなんかいない。
「中島 ゆうとさんのお体ですが。我々の力不足で、なんとか本人だと断定出来たのはこれだけでした。本当に、申し訳ありませんでした。」
カタカタと情け無く震える手で、少しだけ、その血の気のない肌に触れて。氷の様に冷たい体温をただ漠然と感じて。そっとその掌に自分の物を重ねてみて。
________嗚呼、間違いないな、と。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 349人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひまちぃ(プロフ) - うさこさん» うさこさんありがとうございます！！コメントすごく嬉しいです😆次回作も力を入れて頑張りたいと思います！！ (2022年7月13日 19時) (
レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ(プロフ) - こんばんわ。やっと仲直り😊いのちゃんの気持ちを思うと泣けてきちゃってずっと気になっていたのでハッピーエンドになって嬉しいです🙂次の作品も楽しみにしています。 (2022年7月13日 1時) (レス) @page49 id: f4957992c9 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - Rinさん» ありがとうございます！！コメント本当に嬉しいです！！最近は更新頻度も落ちてきてご迷惑をおかけしていることは承知ですが、気長にお待ちいただけると幸いです。 (2022年7月8日 21時) (レス) @page45 id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
Rin - このシリーズすっごくすっごく好きです！！この後の展開が気になって仕方ない書き方をされるのでワクワクが止まりません！早く続きが読みたいです！待ってます！！ (2022年6月30日 19時) (レス) @page44 id: b5ace0fd89 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ぬんさん» コメントありがとうございます！！すっごく嬉しい感想で、静かに喜びを噛み締めてます……！！これからもどうかご愛読ください！！ (2022年6月19日 19時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひまちぃ | 作成日時：2022年3月9日 12時
