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伊野尾side
気がついた時、山田はもう居なくなっていて
玄関先で殴られていたはずの俺は、自室のベッドの上に寝かされていた。
ずきり、と痛んだ額を触るとテープが丁寧に貼られていて『ああ彼か』と瞬時に理解した。
少し重い体を起こし、リビングに居るであろうその人の元へ向かう。
ガチャ、とドアを開けば、キッチンでせかせかと動き回る人影。
アッサム特有の、大地の濃厚で甘い香りがふわりと鼻を擽り、ガラスのティーポットに注がれていくお湯が、軈て鮮やかな赤褐色へと変化していく様は、やはり何度見ても飽きることなく、流れるように魅せられてしまうものだ。
「……千葉くん。」
「俺は怒ってるんだよ。」
その背中へ声を掛ければ、すぐさま怒気を含ませて帰ってくる返事。
普段どうしようもなく底意地が悪い言い方をする彼も、こういう時は、菓子を包みくるめたように酷く優しいのだ。
「……そこ、座って。」
俺が謝罪をしようと口を開く前に、心底機嫌が悪そうな表情の彼に、顎で椅子を指し示されたので、大人しくそこに腰掛ける。
その内、無言で目の前に出されたのは淹れたての紅茶。
机の端にいつでも常備してある、シュガーポットから一つ角砂糖を取り出して入れる。
ぽとん、と軽快な音を立てて沈んだそれは、ティースプーンでかき混ぜると、音も無く、まるで元からそこに無かったかのように溶けていった。
「飲んでみて。」
「うん、ありがとう。」
じっとこちらを見つめる千葉くんに、
一瞬だけ目を向けて軈てカップの中に伏せる。
滑らかな甘味と、ほんの少量のまろやかな渋味。
それは重厚なコクが口の中に残る、後味の良い風味だった。
「……オータムナルだね。」
「分かる？」
「うん、勿論。……ふふ、ふ……ふ……。」
「何笑ってんの、失礼だねぇ。」
ふん、と鼻を鳴らしながらも口元が弧を描いているのだから説得力がない。
耐え切れない笑いに、一度ティーカップを置いて両手で顔を覆った。
「……そこまで笑う？」
「……ち、ばくんの、演技が……ほんとにへたっぴで……。」
思わず声が震え、視界が段々と水気を増していく。
掌の向こうに見える彼が、『ふふ』と笑いを零した気がした。
「ゃ、まだの……こう、ちゃの淹れ方だ……。」
やめてよ。
そうやって君はまた俺の心を揺るがすんだから。
何度も口にした、その嗜むだけでも愛おしい味を
俺の心が、体が忘れる筈などない。
久し振りの彼の味に喜ぶ様に、
ティースプーンがカチャンと音を立てた。
．
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ぽぽ - 何回も何回も読んでは泣いてを繰り返しています。最終話まで必ず待ち続けます！ (2023年4月2日 14時) (
レス) @page22 id: 2356846dec (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ぬんさん» コメントありがとうございます！！内容自体も模索しながらの執筆となりますが、これからも楽しみにしてもらえると幸いです💓 (2022年9月13日 6時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ぬん(プロフ) - 何回読み直してもめっちゃ泣けるほど好きです😭結末がどうなるのかめっちゃ気になってしょうがないです！！ひまちぃ様の作品全部毎回読み返すくらい書き方が好きです！最終話まで待ち続けます👮 (2022年9月13日 0時) (レス) id: 9851ed22ed (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - mojyabucchantさん» コメントありがとうございます！！こんな超超超亀更新作品をそんな風におっしゃっていただいて嬉しい限りです！！なるべく更新続けていけるように頑張っていきます！！ (2022年9月7日 21時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ふぅいさん» 返信非常に遅くなってしまい申し訳ありませんでした。コメントありがとうございます！！一文字一文字何度も読み返して嬉しさに感じ入っております……。ふぅいさんのお言葉に私もモチベを刺激されながらこれからも精進して参ります！ (2022年9月7日 21時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひまちぃ x他1人 | 作成日時：2021年8月11日 22時
