16 ページ16
山田side
俺は、きっと分かっていたんだ。
一途な君が他の男に目移りすることなんて無いと。
俺よりもずっと気丈で居ようとする癖、俺が『愛』を音に乗せる度、まるで初心な少女の様に、その白い頬に血の気を走らせる彼が
そんなこと、する筈がないのだと。
「ぃ、伊野尾が……っ、亡くなった……。」
『心の何処かでは信じていた』なんて言ったら、
彼はいつもの様に笑ってくれるだろうか。
顔を真っ青に、涙をぼろぼろと溢れさせながら
楽屋の入り口で力無く崩れ落ちたマネージャーが発した言葉はぐるぐると脳と鼓膜の間を痛いくらいに往復した後、
「……ぇ、？」
結局、最後まで意味が理解できないまま
俺の口から、吐息同然のそれとなって出て行った。
「っ……飛び降り……だそうだ……。」
少し間を置いてマネージャーの口から零れ落ちたそれは、彼が消えた理由を十分に物語り、俺たちの心の内をたった一つの出来事に確信付ける。
「……なんで…… 」
誰も言葉を発さぬ中、どうにかして絞り出した俺の声を聞いて、心の中に棲みつく以前の伊野尾ちゃんが、心底楽しそうに
『野暮な質問だね！！』
なんて大声で叫んで
駆け回って、はしゃいでみたりして、
『やまだ』
それは嬉しそうに、俺の名前を呼んだ。
胸の底から溢れ出す、憎悪を語尾に宿しながら。
「……飛び降りの理由は、まだ分かっていない。
遺書も、残っていなかったそうだ。」
ひく、と喉が鳴って、胸に熱いものが押し寄せる。
慌てて胸を掻き抱くが、何度弄っても同じ。
放出し切れない熱は、俺の心臓に体を這わせると
心の奥に黒くドロドロとした感情を流し込んだ。
「りょ、すけ、」
「……さわんな。」
「……え、」
「今は、触んないで。」
周囲から目を逸らした視界の隅には、涙目で体を震わせる知 念。その手には、小さくも輝きを放つシルバーの指輪が光っている。
『これ、だけは……あげれない、かえせない。だめ、だめなの。』
それを目に入れた瞬間、キンと耳奥に響く典型的な耳鳴りに混じって、それと同じくらい俺の鼓膜を揺さぶってくる、哀しくも愛おしい彼の特徴的な声。
霞ませた瞼の下で、暗い水が揺れる様に
眩い光を堪えた彼の大きな瞳は、
とんだ愛憎劇なんかに醜く歪んでしまった俺の表情を見て、何を思い、何を焼き付けたのか
それが、彼自身の命を途絶えさせる
最期のきっかけとなってしまったのか、
今となっては、もう誰にも分かり得ないのだろう。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 395人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「やまいの」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽぽ - 何回も何回も読んでは泣いてを繰り返しています。最終話まで必ず待ち続けます！ (2023年4月2日 14時) (
レス) @page22 id: 2356846dec (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ぬんさん» コメントありがとうございます！！内容自体も模索しながらの執筆となりますが、これからも楽しみにしてもらえると幸いです💓 (2022年9月13日 6時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ぬん(プロフ) - 何回読み直してもめっちゃ泣けるほど好きです😭結末がどうなるのかめっちゃ気になってしょうがないです！！ひまちぃ様の作品全部毎回読み返すくらい書き方が好きです！最終話まで待ち続けます👮 (2022年9月13日 0時) (レス) id: 9851ed22ed (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - mojyabucchantさん» コメントありがとうございます！！こんな超超超亀更新作品をそんな風におっしゃっていただいて嬉しい限りです！！なるべく更新続けていけるように頑張っていきます！！ (2022年9月7日 21時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ふぅいさん» 返信非常に遅くなってしまい申し訳ありませんでした。コメントありがとうございます！！一文字一文字何度も読み返して嬉しさに感じ入っております……。ふぅいさんのお言葉に私もモチベを刺激されながらこれからも精進して参ります！ (2022年9月7日 21時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひまちぃ x他1人 | 作成日時：2021年8月11日 22時
