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伊野尾side
熱く沸騰したお湯を注ぎ、素早く蓋をし、暫く蒸らす。蓋の内側に篭った湯気が、軈てフラワリーな香りを一杯に吸い込んで、キッチンの冷え切った空気と混ざり合う、この瞬間が好きだ。
十分蒸らせた所で、カトラリー収納からティースプーンを取り出した。
マットな質感の、上品な藍の色で縞柄のスプーン。
とことん拘りの強い山田が、わざわざ紅茶専門店から取り寄せた商品で、彼曰く『金属のスプーンは紅茶の種類によっては味が変わってしまうから。』らしい。
その為、これは滑らかな触り心地の陶器で出来ているのである。
彼と別れてから、全く使っていなかったそれで
ガラス製のティーポットの中を、軽く一度だけ混ぜた。
スプーンを追うように立つ紅茶の波が、追う対象がいなくなっても尚くるくると螺旋を描くように、面に残り続けている。
「……ぁ、やば……。」
そんな様子に見惚れていたら、素早くやらなければいけない工程を忘れてしまっていた。
慌てて茶漉しを取り出し、ゆっくりと慎重に濾していく。
澄み切った深い紅色がポットの中で柔らかく揺らいだ所で、そっと、ハッカ油を一滴垂らした。
「もう、一滴も要らないって言ったでしょ。」
……その時だった。
横から色白の、がっしりとした手が伸びて
咎める様に俺の手首を優しく掴んだ。
懐かしいその手の感触に、飛びつきたい気持ちを抑えて、焦る心で顔を上げる。
来てくれた、迎えに来てくれた、俺の事を信じてくれた。
そんな期待に、心臓はドクドクと波打ち、
何かが込み上がってくる感覚を察知して喉はひく、と音を立てた。
……なんて、幻想を見たのかも知れない。
顔を上げた先に広がるのは、ただただ無機質に佇む活気のないキッチンで。
俺の心は特別に音を立てる事もなく、只熱だけが冷めていった。
「……一滴は、多いかな。」
誰に対してでも無い、何気無い問いを
目の前に広がる空虚に投げ掛けてみる。
それが返ってくることは無いと分かっているのに。
分かって、いるというのに。
遂に零れ落ちた涙は、止まる事を知らず
冷たいフローリングに当たって、砕けた。
「ぅ、あ……ぁ、ゃま……ちゃん……、」
嗚呼、冷える。
こんなの、凍えてしまう。
ぬくもりが、ほしい。
あの人が、ほしい。
思わずその場で蹲って、自分の体を守る様に抱き締め
喉から零れ落ちる嗚咽を止められないままでいた。
．
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ぽぽ - 何回も何回も読んでは泣いてを繰り返しています。最終話まで必ず待ち続けます！ (2023年4月2日 14時) (
レス) @page22 id: 2356846dec (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ぬんさん» コメントありがとうございます！！内容自体も模索しながらの執筆となりますが、これからも楽しみにしてもらえると幸いです💓 (2022年9月13日 6時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ぬん(プロフ) - 何回読み直してもめっちゃ泣けるほど好きです😭結末がどうなるのかめっちゃ気になってしょうがないです！！ひまちぃ様の作品全部毎回読み返すくらい書き方が好きです！最終話まで待ち続けます👮 (2022年9月13日 0時) (レス) id: 9851ed22ed (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - mojyabucchantさん» コメントありがとうございます！！こんな超超超亀更新作品をそんな風におっしゃっていただいて嬉しい限りです！！なるべく更新続けていけるように頑張っていきます！！ (2022年9月7日 21時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ふぅいさん» 返信非常に遅くなってしまい申し訳ありませんでした。コメントありがとうございます！！一文字一文字何度も読み返して嬉しさに感じ入っております……。ふぅいさんのお言葉に私もモチベを刺激されながらこれからも精進して参ります！ (2022年9月7日 21時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひまちぃ x他1人 | 作成日時：2021年8月11日 22時
