勧誘 ページ2
「...気付いたら立っていた、と？」
『はい。ここがどこなのかわかりません。けれど、きっと夢だと思うんです。こんなにも素晴らしい場所なんてどの地を訪れても無かったんですから。』
「帰る家はあるのか？」
『帰る家は生まれた時からありません。父も母もいませんから。私にあったのは、殺人兵器として戦場で人を殺め続けること。』
「...何人ほど」
何人か、なんてわからない。
生まれた時から、人を殺める術と知識だけを磨かされたのだ。
『きっと、お爺さんが思っている以上です。』
「...そうか」
それ以上、お爺さんは何も言わかなった。
草原に寝っ転がり空気を吸うのだ。
それにしても、この人誰なんだろう。
『お爺さん』
「なんだ」
『名前、教えてください。きっと、目が覚めれば忘れているでしょうけど、この世は一期一会ですもの。記憶とて、大切な思い出ですから。』
「......その言葉、気に入った。朕の名前は康熙帝だ」
『...こう、きてい......』
「そちの名前はなんだ」
『私は蝶野Aです。』
「そうか、A...か。」
『はい、Aです』
うんうん、と頷くこうきてい。
にしても、なんとも呼びづらい名前だ。
いや、決して文句とかじゃないが。
「李太監、勅命を言い渡す」
「はっ！」
「蝶野A、そちを朕の専属宮女とする」
つい、威厳ある言い方に正座をしてしまった。
李太監と呼ばれたおじさんは、私の方を向いた。
「蝶野Aは勅命を受けよ」
『......はい？』
「.........」
「.........」
「............」
『...勅命って何ですか？』
「陛下の命令に決まっておろう！早く、お礼を申し上げなさい」
『...陛下って...え？』
ギギギ...と、こうきていを見る。
こうきていって、つまり、康熙帝ってこと？
ってことは、これ夢じゃなくて...
タイムスリップしたってことか！？
『...あ、ありがとうございます』
「そちには、朕と共に来てもらおう。皇子達にも紹介しておこうと思う」
なんか、とんでもないことになった。
散々褒めた人が目の前にいた。
この国を治める陛下の前で地面に寝っ転がった。
慌てて、マントを羽織って２人の後を着いていく。
陛下と李太監の口角が上がっていたのを、私は知らない────
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作者名：黒澤 怜 | 作成日時：2016年12月9日 23時
