幻と毒薬と嘘 ページ7
#30
｢……どうしたのその顔｣
目を真ん丸にしたまふが近寄ってきて頬を包む。
｢泣いたでしょ？｣
｢映画が良すぎて……｣
｢キヨと行くって言ってた映画、酷評過ぎて寝る人ばっかだったみたいだけど｣
｢えーーーっと｣
｢嘘つくの？キヨとなんかあったんでしょ｣
芯から冷えたような目で私を見るまふ。私の左手の傷跡を撫でながらシューズクロークに押し付ける。
｢、痛いよ｣
｢ひとりは怖いから、一緒にいようって約束したじゃんか｣
そんな悲しい声をしないでくれ。
｢まふは独りじゃないじゃん｣
まふは勘違いしている事がある。昔、まふが辛い時私はただそばに居ただけなんだ。そう、居ただけ。まふを救おうと出来なかったし、しなかった。
まふを救ったのはそらるさんなのに、まふはずっと勘違いしてる。
｢私はあの時、まふのことなんてどうでもよかった｣
この言い方じゃ行き違いが生まれてしまうかもしれない。でも本当の事だから。
｢自分のことでいっぱいいっぱいだった。まふの事なんて気にかける余裕なんて無かった｣
｢うるさい｣
痛いくらいに握られた左手を引かれて、寝室へと連れ込まれる。放るようにベッドに投げられスプリングで身体が弾む。気づけばまふが覆い被さってた。
既視感。
あの頃のまふが重なった。抱きしめてあげなきゃ、壊れてしまう。手を握ってあげなきゃ。頭では思うのに身体は動かずに小刻みに震える。
｢泣くほど嫌いになった？僕のこと｣
｢ちがっ、｣
泣いてるのはまふの方じゃないか。涙が私の頬に降ってくる。
｢ごめん、頭冷やしてくる｣
そう言って、まふは部屋から出て行った。独りじゃないのに。気づいてよ、早く。馬鹿。
玄関にはバッグの中身がそこらに散らばっていた。きっと落とした拍子にヒビが入ったのであろうスマホを手に取るとそらるさんにメッセージを送る。
『まふがそっち行くかもです。喧嘩しちゃいました。迷惑かけます。すみません。』
すぐに既読がついたかと思うと着信音が鳴る。
『なにがあったの？』
『そろそろ私達の関係って清算する必要があると思いますか？』
『……あると思うよ。まふはどうにかする。Aは独りで大丈夫？』
『はい、大丈夫です』
『しんどくなったら、連絡して。無理だけはしない。約束』
『……はい』
切れたスマホを投げる。
｢疲れた｣
膝を抱えてうずくまる。口から漏れた溜息は肺の空気が無くなるほどに大きかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：油性ペン | 作成日時：2019年10月20日 22時
