夜葬 ページ6
#29
最近、キヨさんがよくサラダ買わされ顔(私がサラダ買わせた時のアレである。)をするようになった。
｢キヨさーん｣
ほらまた。
顔を見る度に眉を寄せ、名前を呼ぶ度鋭い視線を向ける。
｢危ねぇ｣
急にキヨさんの方へ肩を寄せられ意識が戻る。私の横を自転車が通ってった。
さっき映画を観に行った時はドリンクを持ってくれたりだとか、暗がりの中で足元に気を使ってくれたり。
反比例。訳がわからない。キヨさんがなんで私に怪訝な顔を向けるのか。なのに、優しくする。
わからないよ。
｢……ありがとうございます｣
｢あ、いや、触ってすまねぇ｣
何故だろう。前よりも距離を感じてしまう。
フェスがあった後の方がまだお互い気楽に居れてたんじゃないかな。
あの時の方が満たされてた。すごく虚しくなる。こんな感情初めてだ。ドクドクと心拍数がだんだんと上がってくる。
｢ちょ、Aさん？！｣
｢へっ？｣
｢痛い所でもあんのか？！もしかしてさっきの自転車あたった？！｣
心配そうな顔をして慌てふためくキヨさんがぼやけて見える。
いつの間にか私は泣いていたらしい。
曲を作っている時の語彙力はどこへやら。私はこの感情をどう言葉にすればいいのかわからない。
だけど、ただ、ただ……
｢何で、そんなに、冷たくするんですかっ、｣
嗚咽がでる。見かねたキヨさんが手を引いて人気のない路地裏へ連れていく。
｢冷たいのに、優しいの、わけわかんない、｣
｢ごめ、泣くなってAさん｣
｢う〜〜｣
｢えっと、あ〜もう！｣
キヨさんの香りに包まれたと思うと、ポンポンと頭を撫でられる。大きく息を吸った後、体を強く抱きしめられた。
｢俺、Aさんから名前呼ばれたりAさんの笑顔みたら口角緩みっぱなしてカッコつかねぇなって｣
｢変な顔しててもいいから、サラダ買わされ顔やめてください゛｣
｢サラダ買わされ顔ってなんだよ｣
｢キヨさんの、変な顔のことです゛｣
キヨさんが私のほっぺたを引っ張って上を向かせる。
少し照れた様な嬉しそうな顔のキヨさんと目が合う。
｢その顔すげぇブサイク｣
｢キヨさんのサラダ買わされ顔のがブサイクです｣
私の髪を優しい手つきで掻き撫で、整えるように髪を梳く。
子供のように泣いちゃった事が恥ずかしくなってきた。
｢キヨさん、泣いた事諸々忘れてくださいお願いしますまじでお願いします｣
｢え、無理。｣
急募、記憶を消す方法。
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作者名：油性ペン | 作成日時：2019年10月20日 22時
