恋雨〈ars,n〉 (ページ4)

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打ち上げ花火ページ4

先生が鍵をかりて
生徒立ち入り禁止の屋上に入った

真っ暗な空に
鮮やかな花火が広がった

｢綺麗だね｣

｢そうですね｣

言葉を交わさなくてもよかった
消えていく花火と残った煙が寂しげだった

｢先生｣

｢ん？｣

わたしの右隣に座る先生がこっちを向いた

｢わたし打ち上げ花火より、手持ち花火が好きです｣

｢そうなの｣

先生はふふっと笑った

ぬるくなって炭酸の抜けたラムネが喉を伝った

｢じゃあ今度しようか｣

先生の声は大きな花火の音に掻き消されて
わたしは小さく頷いた

｢ごめんね｣

｢俺と花火みるなんて｣

｢可笑しいよね｣

暗い階段に響くのは先生の声

｢なんでですか？｣

｢わたしは楽しかったです｣

ありがとう、と先生が小さく言ったのが聞こえた

｢あのさ｣

｢はい？｣

｢ちょっとこっち｣

先生にぐいと手首を引かれて
わたしの身体に先生の身体が覆い被さる

｢ちょっ…｣

わたしの後ろで先生の腕は固く結ばれた
男の人の身体

鼓動が伝わらないように
ぴたっと動きを止めたわたし

状況が理解出来ずにハテナマークが浮かぶ

｢A｣

初めて名前を呼ばれた
もうそれだけで良かった

これ以上加速することは望んでいないから

｢離して…ください…｣

その日の夜は雨が降った