恋雨〈ars,n〉 (ページ3)

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夏祭りページ3

先生と過ごす毎日はあっという間だった

｢先生に教えて貰ったので少し科学が好きになりました｣

｢…それ本気で言ってる？｣

苦笑いする先生にうんうんと頷いてみせる

｢それはよかった｣

｢かなり出来るようになったと思うよ｣

先生に好意を抱いていることは確かだった

土曜日も先生との補習が入っていた

｢えぇー！土曜日もですか、泣｣

｢わかってるよ祭り行きたいんでしょ｣
珍しくぶっきらぼうな口調の先生

｢もちろん夜まではやらないからさ｣
と言いベランダで呑気にタバコを吸っている

｢…先生ってタバコ吸うんですね、意外かも｣

｢まぁ、生徒の前では吸っちゃダメだからね｣

｢えわたしは？｣

｢お前はデイスったりしないでしょ？｣

｢…もちろんです！｣

｢ふふ、怪しいなぁ｣

ぱっちりした目を細めて微笑んだ先生はまた外に目をやる

ガタガタ音が鳴る扇風機を弱にして
先生が作ってくれたココアを飲む

粉多め牛乳少なめ
甘ったるくて冷たくて

わたしにはいつも決まってそれだった

土曜日、夏祭りの日

学校から見える公園を包み込むように灯りがともったのが見えた

薄暗い空には小さな鳥が群れて飛ぶ

｢先生！灯りつきました！｣

｢…なんの報告よ｣

思わず口角が上がった先生は長い丈の白衣を脱いでネクタイを緩めた

｢少し見に行ってみる？｣

学校から出ると浴衣を来て歩くカップルや家族、友達同士、小さな子供
すずしげかつ華やかな浴衣がこの街を彩った

陽は落ちて辺りは暗くなっていた

｢美味しそう｣
屋台から漂ういい匂いに頬を緩めたわたしに

｢なんか食う？｣と
わたしより少し背の高い先生がわたしを見下ろす様に言う

｢え、奢りですか？｣

｢まぁ｣

｢すごい、珍しい｣

｢おいで｣

突然わたしの手首を優しく掴んだ先生は斜め右を歩く

どくんどくんと速くなっていく心臓

先生の手に掴まれた手首と私の顔が
生ぬるい空気のなかでぼっと熱くなるのを感じた

はぐれないように、とわたしの手首を掴む先生の顔は暗闇のなかでイマイチ分からなかった