#508 ページ32
「あ――赤井さんっ!?」
工藤邸の扉を開けたコナンは、目を丸くして来訪した男を見上げる。視線を交わし、赤井はそのまま玄関を通りリビングへ向かった。
リビングではAが一人。おにぎりが並べられたテーブルの前で脱力したように上体を預け、目を閉じていた。
「A姉ちゃん、ずっとそこで待ってたんだけど……疲れてたみたい。ほんのちょっと前に寝ちゃったんだ」
まさか日付が変わるよりも早く戻って来るとは思っていなかったコナンだったが、直ぐに後を追って状況を説明する。
「っ、そうか……」
「……」
普段よりほんの少し呼吸が荒い赤井。その様子から、目立たない所で車を降りた後、ここまで走ってきたらしいと推察できた。
「(素顔で外にいるリスクも考えてだろうけど、本気で急いでたんだな……)」
おもむろにAの隣で身をかがめると、瞼を閉じたままの顏にそっと手を触れた。じんわりと穏やかな温もりが伝わり、赤井はホウとため息をつく。
「……頑張ったな」
「ん……うん、」
頬に当たった冷たい感覚に眉をひそめ身をよじるA。その姿を見て……赤井はクスリと微笑みながら、そう呟いた。
「――ぼっ僕、今夜は博士の家に泊まる予定だったから行くねっ!」
「ああ、送ろう――ん? 」
何となくここにいてはいけない雰囲気を感じ取り、背を向けるコナン。追おうとした赤井は、ジャケットの袖が何かに引っ張られるような感覚を覚える。
……いつの間にやらAが袖口を掴み、赤井の利き腕を封じていた。
「……おいおい」
「あはは……いいよいいよ、すぐ隣だし。赤井さんはA姉ちゃんの傍にいてあげて?あと、そこにあるの食べていいって!」
コナンが指を指した先、赤井の目の前には形の良いおにぎりが皿の上に数個並べられていた。
「A姉ちゃんが作ったんだよ。片手でもしっかり食べられるただろうし……あ、僕も食べたから、起きたらごちそうさまって言っといてね!」
話し相手も行動の選択肢も無くなった赤井は、爆睡するAを眺めながら……フッと笑いおにぎりを手に取った。
――
翌日。
「……わお」
隣で目を閉じているイケメン。手前には空っぽになったお皿。
思わず離した手の先には何故かシワシワになっている見慣れたジャケット。
それが朝日に照らされて目を覚ましたAが最初に見た光景だった。
「……ん、起きたな」
パチリと目を開けた赤井と視線がかち合う。
ポカンとしていたAだったが、一瞬の間を置くとゆっくりと目を細め、呟いた。
(……お帰りなさい。秀一さん)
(──ああ。ただいま)
2023/06/11
気づいたら時間飛んでやがる
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色 - すっごく!!面白いッス!!!それにこんなに長く続けてくれている方は初めてで長く楽しめるのが嬉しいッス!!!主人公ちゃんの秘密とかすごい気になるし、このくっついてそうでくっついてないところとか、すげえキュンキュンくるッス!!!俺、感動ぅ(´;ω;`)って感じッス!! (8月2日 21時) (レス) @page34 id: 9c759aa54d (このIDを非表示/違反報告)
さくら(ふぶきち)(プロフ) - 夢さん» 思い出して貰えてとても嬉しいです……更新頻度も展開も未だ亀ペースでホントに申し訳ない……また遊びに来て下さい! (2023年5月5日 0時) (レス) id: 8478d38e5a (このIDを非表示/違反報告)
夢 - コナンくんの映画を見てこの夢小説をまた読みたくなって一気読みしましたwこれで10週目くらいです…毎度毎度きゅんきゅんが止まりません!!!更新無理なさらず頑張ってくださいね! (2023年4月21日 7時) (レス) @page25 id: 4569fd3783 (このIDを非表示/違反報告)
さくら(ふぶきち)(プロフ) - ユナ@前垢消えたさん» 一気見お疲れ様です。そして嬉しいです、ありがとうございます。 (2023年4月20日 21時) (レス) id: 82d53c230a (このIDを非表示/違反報告)
さくら(ふぶきち)(プロフ) - 紅葉さん» ありがとうございます。私としても、大変光栄なコメントありがたく感じています。今後も更新頑張っていきますね。 (2023年4月20日 21時) (レス) id: 82d53c230a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくら | 作成日時:2022年5月29日 0時