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二話 ページ3



 時間設定しておいた音楽が、まだ完全に起きてない頭に響く。
 早いところ事務所に行く準備して、朝御飯作って、お姉ちゃんを起こして、……いや、今すぐ起こした方が後が楽かも? そうと決まれば早く起きよう、と軽い計画を立て布団から出た。二段ベッドの梯子を一段登って、彼女の足を揺する。
「起きて、ほらほら早く」
「……ん、あと十年……」
「何? 私に姉になってほしいの?」
「違う……」
 もごもごと起きない茜の足をもう一度揺すり、「早く起きてよね」と声を掛ける。いつもなら唸りながら起き上がる茜が、何故か今日は起きようとしない。違和感を覚えたが、まあ、いいかと彼女に背を向け、ぴょんと降りた。
 顔を洗い、服を着替え、髪を横と後ろの三つに結んだ所で茜が起きてきた。
「……はよーさん」
「おはよう、茜。パン焼くから早いとこ顔洗って、髪結んで来て?」
 私の呼び掛けにあいあいと相槌を打ちながら、眠気で半目な茜はドアを閉めた。そんな彼女の様子を尻目に、私は食パンをトースターに入れる。このトースターはなんでも、私たちがまだソフトだった時に合わせたらしく、今ではあまり見ない形をしている。いや、そもそもトースターを使う人が少ないか……と考えてる間にパンが焼けた。パンを皿に乗せてテーブルの上に置き、お揃いのマグカップに珈琲を淹れた。
「葵〜、髪飾りの向きってどっちやったけー?」
 廊下の方から声が聞こえた。
 いつもは家から出る前に付けるのに、珍しいな。しかも向きを忘れるなんてらしくない。
 そう考えた頭に呆れ、こめかみを軽く叩いた。それから考えを落とす様に頭を振り、茜に答える。
「左だよ。茜から見て、左」
「……ん? …………せやったか?」
「鏡越しに見るから違く見えるんだよ」
「せやろか?」
「とりあえずご飯食べようよ。遅れちゃうよ?」
 なんや違うなあ、と髪飾りを弄りながら茜は部屋に入って来た。そのまま椅子に座って、胸の前で手を合わせた。
「いただきますー!」
「どうぞー。……いただきまーす」
 時計を見ると六時半を少し過ぎた位だった。確か、タイマーをセットしたのが六時だったから、三十分ちょっとしか掛からなかったのか。早いなあ、と起きてからの記憶を振り返っていた。
 あれ、茜を起こす時に、何か……そうだ、違和感だ。違和感を覚えたんだ。……何に?
 記憶を辿っても思い出せない。いつもは此処で諦めるのだけれど、今日は何故か思い出さないといけない気がした。

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作者名:灰石榴 | 作成日時:2019年1月4日 16時

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