一話 ページ2
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「ただいま帰りましたよー」
雨に濡れた髪を絞りながら、ドアを開けてそう言った。しかし、返ってくる声はない。不思議に思って携帯を取り出して見ると、メールが届いていた。画面に触れて内容を確認する。
『今から帰るね。あと、今コンビニなんだけど、ご飯買ってこうか?』
美味そうな菓子でもあったのか?
そんな事を思いながら文字を打ち、送信。
『了解! 食べたから大丈夫v』
携帯を鞄に直し、風呂場に小走りで向かう。脱衣場の扉を開け、振り袖の様なアームカバーを外した。ふと、視界の端に映った鏡に向き合い、自分の姿を見た。黒のノースリーブワンピースに肩の部分が抜けてる袖。桃色の髪によく合う水色と赤の髪飾り。……そして、それらから落ちてくる水滴。
「さぶっ」
服に見惚れて現実の感覚を忘れていたって言うのに、雨の存在がそれを邪魔した。
……早く脱いでしまおう。
髪を拭きながらキッチンに行き、お茶とスナック菓子を持ちリビングに。それを食べながら葵ちゃんの帰りを待つことにする。
静けさを紛らわす為に溜め息を吐き、先程風呂に入る前に見た服と、全く同じな服を見下ろした。VOICEROIDは公式が出した服以外着てはいけない。……訳じゃあない。ただ、『髪と目が似ているアンドロイド』になってしまうことを避ける為に、それしか着ないだけだ。
うちらがまだソフトウェアだった時代とは違い、窓の外に目線を動かすだけで人間そっくりなアンドロイドが歩いているのが見える。うちと同じ姿のそれも居た。その顔と身体は傷だらけで、片腕が無い。見慣れたその光景に素早くカーテンを閉め、椅子に座り直した。
「ただいまー」
玄関の方で声が聞こえ、部屋のドアが少し開く。その扉と壁の隙間から声の主は雫を落とし、顔を覗かせた。
「ただいま〜」
「や、や、お帰りー!」
「……ん……あ、ねえ、おやつ買ってきたよっ」
こちらに近付きつつバッグから棒付きアイスを取り出し、袋はそのままに差し出してきた。身体と手を伸ばしてそれを受け取り、袋を少々強引に破って口に咥えた。
「うまっ!」
「そ? 良かった。じゃあ、お風呂入ってくるね」
「んー!」
廊下を進む背中に返事とタオルを投げ、頬杖を付いて残りのアイスをしゃくしゃくと食べた。部屋の隅にあるゴミ箱に残った棒をティッシュに包んで投げ捨てた。掌が重なる様に腕を組み、手の甲に頭を乗せる。暫くしてシャワーの音が聞こえた頃、やっと来た睡魔に意識を沈めた。
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作者名:灰石榴 | 作成日時:2019年1月4日 16時