Gray.279 ページ29
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心臓と息遣いしか聞こえない静寂。
一つ二つとボタンを外す灰崎くんの手を見つめていると、
──RRR…RRR…
「うわ、ビビった」
「え、あ、電話だ…」
その音は急に部室内に響いた。
静寂だったからこそ電話の音は酷く大きく聞こえて
一度大きく心臓が跳ねた。
電話に出てみると相手はもっちー先輩で
誠凛さんが着いて正門に居るらしいから案内よろしくとの事。
「空気読めっつの……」
「先輩が?誠凛さんが?」
「どっちも」
それでも案内はしないといけないと思ったらしく
灰崎くんは渋々といったように私から退いてくれた。
私も起き上がると少しだけ残念だと思いながら服を直した。
「A」
「え?」
「行く前にもう一回」
「……んっ」
一度だけ優しいキスが落とされる。
少しだけ幸せな気持ちと満たされた気持ち。
そして、それと同時に切なくなる。
「灰崎くんってキスしたの何人目?」
「いちいち覚えてると思うか?」
「あー…」
部室を出て、正門に歩き出す。
「……最初は、誰かさんになるはずだったんだけどなァ?
拒絶された時はガキなりにすげー傷付いたわ」
「だって女の子だと思ってたもん。
友達として好きだって事だと思ってたもん」
「やー、悲しい初恋だわ」
「…初恋なんだ、私が」
「あっ」
言ってから失言に気付き後悔したらしいけれどもう遅い。
初めて知ったその事実に私は嬉しくなった。
「私は灰崎くんが初恋じゃないけどね」
「あー、ハイハイ。興味ねぇ」
よっぽど自分の失言が恥ずかしかったのか
歩く速度を早めると灰崎くんはスタスタと進んでしまった。
私も小走りで後を追う。
「あ」
どちらともなく声が漏れる。
正門までたどり着くと、そこに誠凛の人達が居た。
「…お久しぶりです。灰崎くん、Aさん」
「テツヤ…」
「久しぶり、黒子くん。皆さんも今日は
遠い所までわざわざありがとうございます」
誠凛の皆さんは「こちらこそ」と挨拶を返してくれたけれど
黒子くん以外のその目はどこか冷たく、灰崎くんを見る。
黒子くんのチームだからどこか期待していたけれど
やっぱそういう目をされるのか。
「ええと、控え室に案内しますね。
うちの部長に私達が案内するように頼まれたんです」
とにかく私は先輩からの言いつけを守る為に
誠凛の皆さんを控え室に案内する事にした。
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マリイ - ミリイのリクに虹村とこのままが良いって言う奴いるからミリイが怒ってる そのコメに返信するから余計に怒った ミリイに全て聞かないとダメ (2019年8月24日 14時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:由麻 | 作成日時:2019年8月8日 0時