Gray.158 ページ8
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ー貴女side
最後、灰崎くんはもっちー先輩にボールを回した。
これが初めてというわけではないけれど
土壇場の最後にパスをしたと言うのが重要で
そんな大切な場面を他人に任せるなんて、余程信頼していない限り絶対に彼はやらない行動だった。
…皆を信じ始めてくれてるのかな。
勝利の余韻に浸りつつそんな事を考える。
「もう皆行っちゃうけど…大丈夫?立てる?」
って言うか立てなくても控え室を空けなきゃいけないからどの道、場所は変えなきゃいけないんだけど、
と付け足すと控え室のベンチで座っていた灰崎くんは恨めしそうに立ち上がった。
「これから晩御飯兼打ち上げだよ。
もっちー先輩が灰崎くんに好きな物を奢ってくれるって。」
「気ィ早ぇな。一応予選だぞ」
「予選とか本戦とかより、灰崎くんが青峰くんの技を奪った事が重要なんだよ。」
「…」
私が微笑むと、まるで子供のように少しだけ頬を染め気色ばみながら荷物を持ち灰崎くんは控え室を後にした。
「変なの」
可愛いなと思いちょっとだけ笑ってから私も後を追った。
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「…で。…何で居んだテメェら!」
比較的大きいであろう灰崎くんの声は、夕飯時であるファミレスでごった返した人や食器の喧騒であまり目立たなかった。
ただ、私達が案内された席の通路挟んで隣の席に居た青峰くんだけが煩わしそうに耳を塞いでいた。
「うっせーな。さつきが腹減ったって煩かったんだよ」
「あ!負けた誰かさんを慰めてあげてるのにひっどーい!」
頬を膨らませぷりぷりと可愛らしく怒る桃井さんはその可愛さに反してかなり強くバシバシと青峰くんの肩を叩いていた。
「痛てェよ!このブス!」
「何よガングロ!」
「うっわ、始まった」
この幼馴染の喧嘩はしばらく続くだろうなぁと思いつつ私は先に座りやり取りを楽しそうに眺めていたもっちー先輩の向かいに座った。
先輩はメニューを広げつつ「何食う?」と青峰くん達の席の方にいた灰崎くんに問いかける。
意外と素直に彼は私の横に座ってメニューを見始めた。
「…!」
そしてふと、椅子に下ろしていた手に彼の手が重ねられた。
文化祭の時にも、あった。こんな事。
前みたいに振り解けばいい。
分かっていたのに。
「じゃ、俺は…」
平然とメニューを選ぶ彼を横目に睨むだけで
手を動かす事ができなかった。
ああ。
ファミレスの店内より、二人の喧嘩より
心臓の音が、一番煩わしい。
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作者名:由麻 | 作成日時:2019年3月26日 23時