Gray.157 ページ7
.
ー灰崎side
その大声に一瞬気が抜けそうになる。
Aの声が、この会場を一つにしたのを確かに感じながら
俺は、同点まで追いつかせる。
四十八対四十八。ほぼゾーン同士の戦いで
残り時間は二分もない。…先に二点入れた方が勝ちってところか。
ただ、──ヤベェな、流石に。
「…はぁ」
俺のはゾーンでは無い。ダイキのゾーンを奪っただけ。
限界ギリギリであって限界突破では無い。
つまり、限界が来た。
二分も持たねぇとは思わなかった。
けれど負ける訳にもいかない。
だから意地でも走って、そしてダンクを決めようと高く飛んだ。
残り時間は、一分。
「これで勝っ…」
「勝ってねぇよアホが!!」
「ッ!!」
最後の最後、火事場の馬鹿力と言うのだろうか。
俺に追いついたダイキがダンクしようとしたボールを掴んだ。
ああ、やっとここまで来たのに。
このゴールさえ決めれば。
でも、もう。
「…っクソ、力入んね」
ボールごと、地面に戻される。
脚がつく。
ボールがダイキに取られる。
ああ、延長なんて確実に勝てねぇぞ。
手から指先、ボールが俺から離れる。
ここまでかと、諦めた。
「灰崎くん頑張れー!!」
「…!」
───ああ。なんて現金な奴だ俺は。
集中を取り戻すには彼女のその声だけで、充分だった。
「っ、ぶね」
俺の手から離れようとしたボールはギリギリの所で再び俺が掴み
そして、スリーポイントライン手前で絶賛フリーの望月にパスした。
残り時間は二十秒。
さて、この流れは二回目だぞ。いい加減懲りろよ桐皇学園。
「…フリーの奴を誰もマークしないなんて、アホだな」
それはシュートを打つ望月の言葉だった。
全員、俺とダイキに注目していたから
皆相手や自陣のゴール近くに固まっていて
きっと一人だけシレッとスリーポイントライン手前に突っ立っている奴になんて気付かなかったんだろう。
周りが見えてるキャプテンってのは悪くねェな。
───弧を描いたシュートがリングに当たること無くネットに吸い込まれるのと試合終了の笛が鳴るのはほぼ同時だった。
結果は。
得点板に注がれる全員の視線。
『五十一対四十八──予選決勝、勝者は福田総合!!』
響く歓声がそれが嘘ではない事を示す。
「チッ、負けたか。次は勝つかんな」
「…へいへい」
少し悔しそうにダイキが差し出した手を握らずに掌を軽く叩くと、笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：由麻 | 作成日時：2019年3月26日 23時
