Gray.198 ページ48
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宿に戻ったのは朝食の時だった。
氷室の言葉が事実なのかを確かめたかったけれど
既に全員が食べ始めている食堂内にAの姿は無い。
「…。…Aは?」
誰にともなく問い掛けると、代表して答えたのは望月だった。
「先に食べ終えてもう陽泉の体育館。
整備とかスポドリとか手伝ってる」
「…あー……」
納得。
別に聞くのは後ででも良いし、ゆっくり飯食って練習までもっかい寝るか。
…そう決め込んだ癖して食べる速さは誰より早かった。
最終日ともなれば陽泉にも行き慣れる。
その教会さながらの建物の装飾は慣れねぇけど。
そして、体育館の入口に座って一つのスマホを二人で見る男女が見えて
「いや近ぇよ」とか「体育館整備しに来てんじゃねぇのかよ」とか。
…色々思いながらも俺は二人に近付いた。
「二人してスマホ眺めて余裕じゃねぇか」
嫌味を込めたつもりだったが二人とも平然とした表情で俺を見て、そしてAが最初にスマホに向かって言葉を発した。
「あ、灰崎くん。──虹村先輩。灰崎くんも来ましたよ」
えﾞっ。
あっ、しまった。今は話しかけるべきではなかった。
スマホ見てたのってまさかテレビ通話とかしてやがったのか。
「今ね、シュウと通話してたんだ」
デショウネ。
やめろタツヤ。その爽やかな笑顔は今は殺意沸く。
ど う 逃 げ よ う 。
けれど考える間もなく
虚しくもスマホ画面が俺の方に向けられる。
───部屋、だろうか。
椅子に座り、涼しそうなTシャツ姿の虹村がそこに居た。
「おう、元気か?灰崎」
「…なんだその謎の質問」
「あ?」
「あ、元気デス」
結局、通話には俺も巻き込まれた。
Aを間にタツヤとは反対に座ると始まったのは世間話だった。
虹村とタツヤが知り合いだった話とか
アツシが過去の説教されたりしたら嫌だからとかで通話拒否した話とか。
…そういえば。
氷室の言葉を有無を
今ここで聞いたらどうなるんだろう。
メンツとしては最低で、最高だ。
けどまあ、俺もそこまで意地悪くは無い。
「試合、頑張れよ。片方選べねぇからどっちも応援してるわ」
「ふふ、俺も両方を応援するよ」
虹村の言葉に答えたのはタツヤだった。
「あ?お前はスタメンだろ?」
「…ああ、そうだったね」
何言ってんだと虹村やAは笑ってたけれど俺は気付いた。
絶対にわざとだと自覚しての言葉だった。
コイツ、爽やかな顔して俺より意地悪いのでは。
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作者名：由麻 | 作成日時：2019年3月26日 23時
