Gray.197 ページ47
.
ー灰崎side
───練習試合当日に珍しくも早く目が冴えてしまったのは前日に遊び疲れてすぐ寝てしまったからだろうか。
「ふあぁ…」
欠伸を漏らし、砂浜に足を取られたのを機に歩を止める。
──聞こえるのは波の音と、砂を歩く音。
まだ日も登りかけの早朝の海は少し寒くて、薄暗くて、潮の匂いが強くて、誰も居ないから静かで、落ち着く。
何となく海に来てみたけれど、ああ。
こういう海も嫌いじゃない。
「…君もここに来てたんだね」
「……。お前も目ェ冴えたのかよ、……氷室」
いつから居たのか、海を背景に、氷室タツヤはとても絵になっていた。
マジでこういうのを美青年って言うんだろうな。
虹村や望月とタメとか信じらんねぇ。
「悪くねぇな、秋田の海も」
「冬は地獄だよ」
「冬に海行かねぇよ」
「はは、そうだね」
前日の事で少しは堪えたかと思ったけれど、…何だ、そうでもねぇな。
むしろ吹っ切れた顔をしてるようにも見える。
「負け犬、って面では無くなったな。
…そうでなきゃ、やりがいがねェ。
昨日よりは奪う価値も出てきたんじゃね?」
「それはどうも。…君のおかげだよ。
…ふふ、彼女が君を追いかける理由も分かる気がする」
「あ?」
「Aはシュウより君の方が似合ってるんじゃないかな」
風で氷室の髪が揺れる。けれどその左目は絶対に見えない。
頑丈な前髪で隠れた方とは逆の右目はやはり落ち着いた色をしていた。
「当たり前の事、抜かしてんじゃねぇよ」
「シュウに言っておくよ」
「おい、Aに何か吹き込まれたな」
とうとうAみたいな事を言い出しやがったなと氷室を見ると可笑しそうに笑いを堪えていた。
「あはは…っ」
何だ、そういう笑い方もできるんじゃねぇか。
「…ったく。…そういうお前となら仲良くなれそうだわ。
練習試合だからって手は抜かねぇからな、…タツヤ」
「…ああ、そう来なくちゃ。望むところだよ…ショウゴ」
差し出された手を握ると、少しだけ力は強かった。
やっぱりコイツ絶対に喧嘩慣れしてる。
「あ、そういえばAが言っていたよ」
「あ?」
そろそろ寮に戻るとかで海を後にする直前だった。
タツヤが少しだけ意地の悪い笑みを浮かべながら言ってきたのは。
「シュウよりも、君のバスケが好きだって」
「…は?」
じゃあね、とタツヤが帰っていく。
…あれ?
だって前、聞いた時は
え、つまり
つまり、──?
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：由麻 | 作成日時：2019年3月26日 23時
