Gray.163 ページ13
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数十分後、飲み物のおかわりを持ってくるからと望月が部屋を出た。
「疲れたぁ」とテーブルに脱力するAのノートにはビッシリと数学の問題と答えが書き込まれていた。
うわ、頭痛くなりそ。
「…お前、そんな数学無理だったか?」
「灰崎くんは二年の数学がいかに難しいか授業出ないから分からないんだ。」
「…」
「たまには教室来なよ。学校でも灰崎くんと居たいな」
部活に出るようにはなった。
けれど、学校自体には来なかったり来てもサボったりほぼ教室に来る事すら無かった。
「…同じクラス、だったか?」
「えー、それすら知らないの?」
同じクラスだよ、と続けられて
少しだけもったいない事をしたなと思った。
たまには、行ってやるか。
「あ、灰崎くん。髪やってよ髪」
「は?」
Aは俗に言う二つ結びを解くと俺の目の前に背を向けて腰掛けてきた。
そして振り向いてゴムを差し出してくる。
…ちっけぇ。こんな近かったか、前に髪結んだ時。
いや、前は椅子越しだった。
今は熱を、感じれる程に近い。
「三つ編み!先輩が戻ってくるまででいいからさー」
「…ったく」
ゴムを受け取って、顔を前に向けるAの髪を手に取った時に
初めて自分の手が震えている事に気付いた。
前はこんなこと、無かったのに。
けれど俺の手で編み込まれていく細い髪は前と変わらない。
揺れる度に髪から漂うシャンプーの香りが俺を惑わせる。
バニラみたいな、甘くて、美味しそうな匂い。
ちょっとだけ、触れてみたくなったんだ。
いや、本当は
食べたくて仕方がなかった。
まるで人間的でないその表現が一番合っていた。
二つ、三つ編みを編み終えて「出来た」と伝えると彼女は嬉しそうに髪に触れていた。
「ありがとう!やっぱ上手だなぁ」と笑う姿に今すぐにでも抱き締めてしまいたかった。
けれどそれを制限したのはここが望月の家という事実と
髪に触れる右手の薬指で光る、指輪。
「ん、可愛いな」
「でしょ!灰崎くんにやって貰ったんです!」
ペットボトルごと飲み物を持ってきて部屋に戻ってきた望月は開口一番にそう言った。
床に座ってコップに飲みものを注ぎながら「その猫の髪飾りと合ってるよ」と言った。
まさかそんな言葉が来るとは思わず未だ俺の前に座るAの表情を覗き見る。
「えへへっ」
「お気に入りだから嬉しいです」と言いながら少し照れたように笑っていて
その姿はとても、可愛かった。
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作者名：由麻 | 作成日時：2019年3月26日 23時
