Gray.96 ページ46
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「────おい、起きろ」
虹村先輩の声により夢も見ずに次に起こされたのは数十分後。
先輩から離れて周りを見ると、テレビに映された時間は年越しがもうすぐそこまで来ている事を示していて
コタツにはお蕎麦が置いてあり、先輩のお母さんや起こされて眠そうな二人が居た。
「…すみません、寝ちゃってて」
虹村先輩のお母さんや弟さん達。虹村先輩の家族は先輩と同じで優しくて暖かい人ばかりで
今日初めて来たのに自分の家族の次に落ち着く場所だと思えるくらいに安心出来る場所で
それは、眠ってしまった事からも伺えたらしく皆はやはり優しく笑ってくれた。
「あ!あと一分!」
それは、妹さんの声で皆の視線はテレビに向けられた。
本当にもうあと一分も無い。
刻一刻と迫る年明けに私達は蕎麦を食べる為にお箸を手に取った。
「虹村先輩」
「ん?」
「私の恋人でいてくれて、ありがとうございます」
その今年の間に初めて会えたのが今日なのだけれど。
けど、電話とかでお世話になっていたし指輪をくれたりもしてくれて
そもそも私の恋人で居てくれる事に感謝していた。
────弟さん達がテレビの芸能人に合わせてカウントダウンを言い始める。
十、九、八、
「俺のセリフなんだよなぁ、それ。
約二年放ったらかしてんのに浮気どころか振られても可笑しくねーのに」
「帝光まで先輩を追った粘り強さ舐めないでください」
「へいへい、尊敬に値します」
三、二、
「───あけましておめでとう、A」
たった一日の彼との去年は、とても色濃く幸せなものだった。
コタツの下で触れ合う手も、一瞬だけの触れるだけのキスも
きっと、テレビに夢中な皆は気付いては居ない。
「今年もよろしくお願いします。先輩」
新年なんて盛り上がっているだけで、きっと今年と変わりはないんだ。
少なくとも家ではいつも通りの夜で初日の出なんてものも見ないし初詣にも行かない。
ゆっくりテレビをみて雑魚寝をする
それはそれで幸せな年越しを過していた。
けど、今年は、…今年だけは、新年らしい事をしても良いだろうか。
虹村先輩と新年らしい事をしたいと願っても良いのだろうか。
美味しいお蕎麦を食べながら私は小さく呟いた。
「初日の出、見たいな。初詣にも行ってみたい」
虹村先輩にだけ聞こえるように、小さく。
返事を期待なんてしていなかったけれど
虹村先輩は優しいから返してくれた。
「…じゃ、一緒に見るか」
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作者名:由麻 | 作成日時:2018年12月14日 6時