Gray.94 ページ44
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久しぶりに彼女に会ったからだろうか。
何だか惹かれてばかりいる。
それが悔しくて残りの飯を平らげると
何を思ったのか弟と妹も真似をして平らげた。
丁度食べ終わった頃に皿洗いを終えた母親が戻ってきてAに「お風呂が沸いてるから勝手に入っちゃっていいからね」とかなんとか言っていた。
…俺の家の風呂にAな入るって言うのも、新鮮だな。
が、そんな穏やかな考えも吹き飛ぶ言葉が弟と妹から飛んできた。
「あー、俺もお姉ちゃんとお風呂入る!」
「ずるい!私もお姉ちゃんと入りたい!」
いやいやいや、何言ってんのかなコイツらは。
Aと風呂?は?ガキだからって調子乗んなよオイ。
ちなみに母親は「Aちゃんが困っちゃうから二人ともお兄ちゃんと入りなさい」とかフォローしてくれていた。
が、そのフォローを破ったのは本人だったりする。
「あ、私は大丈夫ですよ!楽しそうですし!」
はぁあ?いやもう有り得ない。弟妹でもAの裸を見…いや、世話を任すなんて流石に迷惑だし
俺も見た事な…いやそうじゃなくてだな。
そして、その後すぐにAの言葉に了承した母親が風呂に入る準備をさせるからと二人を連れてリビングから出て行き、唐突に二人きりになった。
こちらを向いたAは俺の顔を見てニヤニヤと笑い出す。
「ふふ、不機嫌に唇突き出しちゃって」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
無意識に俺は俗に言うアヒル口になってしまうらしい。
それは自覚していたけれどまさかそれを今言われるとは思わなかった。
コンプレックスとまでは行かずともあんまりアヒル口とか言われんのは好きじゃない。
「そう聞こえるのなら、言い方変えますね」
言い方の問題じゃねェよと思ったが、言葉より先の行動は予想外どころでは無かった。
そう、言葉が来ると思ってたのに
実際はどちらも言葉なんて発せられなかった。
「…ダメですよ、キス待ちみたいな顔しちゃ。
そのアヒル口って凄くキスしたくなるんですから。
…って、実は中学の時から思ってました」
不意打ちほど破壊力のあるものは無いと思う。
キスも言葉もその照れた笑顔も、…全てが不意打ちすぎて。
「お風呂、お先に失礼しますね」
そう言ってリビングを出るAとほぼ入れ替わりに入ってきた母親に
「タコみたいよ?」と、からかわれるくらいには
きっと俺の顔は真っ赤でアヒル口だったに違いない。
…そして初めて、アヒル口で良かったと思った。
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作者名：由麻 | 作成日時：2018年12月14日 6時
