Gray.84 ページ34
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ー貴女side
彼の腕が伸ばされて、本当は手を掴むべきだと分かっていたのに
私は、耐えきれずに彼に抱きついた。
走って、そのまま体当たりをするように抱き付いたけれど、彼は受け止めてくれた。
彼の匂い。彼の温もり。彼の感触。……目の前に虹村先輩が居るんだと実感出来た瞬間、涙は止まらなくなった。
「会い、たかった…っ」
「俺だって、…A…っ」
強く私を抱き締めてくれる。
電話越しのボヤけたものじゃない声。
虹村先輩が私の名前を呼ぶ。
少し掠れた涙声はハッキリ私の耳に聞こえた。
やっと、同じ空、同じ時間を過ごしてる。
時差なんて気にしなくていいんだ。
今だけ。…それはたった一週間だとしても。
「…好きだよ。A。…っ、好きだ」
「私も…虹村先輩の事大好きです…っ」
「もっと顔、見せて。…触れさせて」
「虹村先輩…」
名残惜しそうに私から離れる虹村先輩が愛おしそうに私の頬に触れる。
スマホの画面越しじゃない。
体温も感触も声も、温もりも、…彼は居るんだ。ちゃんとここに居る。
「はぁ、嬉しい。本物だ」
「ちょ、偽物が居るみたいな言い方やめて下さいよ」
今度は頭を撫でられて、感傷が覚めてくると恥ずかしさが増してくる。
思わず俯くと手元の紙袋が目入り
私は、それを虹村先輩の前に突き出した。
「そうだ、プレゼント持ってきたんですよ!」
「…プレゼント?」
「開けてみて下さい」
紙袋を受け取ると虹村先輩は中身を取り出す。
箱が一つ。中身は言うまでもなく時計なのだがこれはタダの時計では無い。
包装を解き中身を開けて虹村先輩も納得して呆れたように微笑んだ。
私は、コートの袖を巻くって同じ時計を見せる。
あの時に買っていたお揃いの腕時計。
これは、私達だから出来る、お揃い。
「時差時計オソロとか、粋なことしてくれんじゃん」
「これならもう、時差を忘れないでしょ?」
時計は四角いタイプで上下に二つ時計がついている。
それぞれ示すのは日本とアメリカの時間。
あのお店で二つセットの時差時計を見た時に、買わずには居られなかった。
袖を戻して私は、虹村先輩に悪戯に笑った。
「大切にして下さいね?」
「アホ、するに決まってんだろ」
一度、くしゃくしゃと私の頭を撫でてから虹村先輩は時計を腕に付けてくれた。
これでもう忘れない。…そして刻み付けられる。
私と彼はこんなにも遠いんだぞー、…ってね。
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作者名：由麻 | 作成日時：2018年12月14日 6時
