第5章 エピソード7 ページ19
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オーロラ嬢が涙を流しながら、自身の存在のことを覚えてるか問いかけた。
すると、アルはオーロラ嬢にこう言い放った。
「もちろん覚えてるよ。…で、それがどうしたって言うんだい？」
「…！！あの、ノア様…私は…！」
「その名を呼んでいいのは、僕を本当に愛していた父上と母上だけだ。正妻だったからって、その名を呼んでいいと言ったか？」
「それは…申し訳ございません。」
「…いいかい？君とかつての僕は確かに夫婦だった。けれど、それは君の父君が強引にこじつけた婚約だったことを忘れたかい？」
アルが…こんな冷たい声をするなんて。
スヴェンダー家の末裔はノア様とルナだけだから、記憶が残っていたとはいえスヴェンダー家はとうに滅亡した家系だ。
その末裔の中で結婚していたのは、ノア様であるアルだけだったはずだ。
そういえば、エリス様とお会いする時ノア様を恋しく見ていた気がする。
それはまるで、皇妃時代の私と重なる状況だった。
自分の意思とは関係なく決められた結婚だと思っていた。
けれど、私とエリス様は相手を愛していた。
私と違って、スヴェンダー家は後妻を迎えていなかったけれど、それでも思いを伝えられずあの無惨な死を迎えていた。
「けれど…！私は本当に貴方様を想っていました…！…貴方様は信じられないかもしれませんが…。」
「ああ、信じる気にもなれない。僕を愛しているなら、もっと僕の前で笑顔になったりする。だが、君と一緒に話していても笑顔を見せることもなかったじゃないか。それなのに、僕を想っているなど信じることは出来ないんじゃない？」
(それは違う…！エリス様は…ずっと…。)
エリス様は私と同じく、幼い頃から徹底された英才教育を受けていた。
それは、エリス様のご実家にあたる、ティアラス侯爵家は…序列五位だった頃があったからだ。
ティアラス侯爵家は序列五位ながら、私の家系と同じくオルコット侯爵と同等の程で、公爵と同じような待遇を受けていた。
そんな高貴な家系に生まれていたら、感情を抑える方法だって習っているはず。
だからエリス様はノア様の前で笑顔を見せなかったんだ。
それに、笑顔を見せるほどには話せなかったんだろう。
自分を嫌っているだろうと予想する相手に、話しかけられる勇気など出ないだろうから。
けれど、これはアルとオーロラ嬢…いや、エリス様とノア様の問題だから何も口を挟めない…。
私だったら、こんな状況耐えられないだろう。
子供を失った時も…あの男を想っていた…。
そんな私に、恋人などもうできないだろう。
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作者名：有栖茶 | 作者ホームページ：
作成日時：2022年1月15日 11時
