ラングドシャ/shoppi ページ42
。
馥郁とした牛酪と砂糖の仄かな甘さが鼻腔を擽る。
匂いを鼻で辿れば、可愛らしく包み紙でラッピングされたラングドシャが四枚、握られ、そこいらに揺れている。
確か、男子生徒が技術科目で汗を流している時、女子生徒は調理実習だったか。通りで顔見知りが一日で印象を急上昇させようとしていた訳だ。俗に言うバレンタインデーでもないのに、まぁ大層御苦労だとでも言っておこうか。別に貪欲に甘味を求める訳では無いので、両手を机上で組み、そうの上で暫し夢見心地になる。
すると軽くとんとん、と肩を叩かれ、顔を上げれば先程揺れていたのと同じラングドシャが置かれていた。
｢ショッピ君、これあげる。｣
｢ん…いんすか？｣
｢うん。いらなかったら捨ててくれて良いからね。｣
そう言って彼女は、机上に広げて伏せた携帯小説に視線を再度落とした。
ただ隣の席というだけで軽く挨拶を交わした以来関わりもしなかったので、ただぽつんと放置されたこの菓子をどうするべきなのか暫し逡巡する。
だが押し返す義理も無いので、教科図書類が入っていない小さな手提げ袋に放り込む。ここなら何かの重圧で粉々になってしまうことも無いだろう。
ちらりと隣を見やれば、ぺらりと紙を人差し指が押し上げる音が厭に響いて聞こえる。
何故、俺なのだろうか。
彼女_Aは、決してクラス内で目立つ事は無かれど、友人が居ない訳では無かった。
一つクラスの範疇を抜けたとしても友人はいたし、人付き合いが苦手という雰囲気も如実には出ていない。
定期試験でも赤点を取ることは無いが、頭一つ以上秀出た部分もない。
本人の前では言えっこないが、平々凡々なのだ。
良い意味でも悪い意味でも脚光を浴びることは無い質で、どうも抜け落ち易い。
だが、いざ挨拶をしてみればちゃんと彼女も周りと異なる雰囲気を著ている。それは勿論彼女なりのインディビジュアリティーあろう。
素朴で、こじんまりとしていながらも温かみのある優しさ。
馴染みやすい分、どこか軽く感じる性質は、鞄の中の包みと実によく似ている。
｢ショッピ君、猫好きでしょ？だからだよ。｣
著．アムリタ
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ぽんずさん» 毎度お世話になっております野鳥に御座います。お気に召された様で何よりと存じます。お粗末様でした。 (2020年11月8日 22時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず - こそこそ覗いておりました私です。私が大の甘党故タイトルに惹かれ読んでおりましたが御二方の菓子を結んだお話に今尚うっとりしております・・！口の中に広がる違和感、垣間見える狂気に今回も圧巻です。鵯様、アムリタ様、ごちそうさまでした！ (2020年11月8日 10時) (レス) id: cc7e22f34f (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 1さん» 言葉は殊更に束縛されずに故に解き放たれた莫大な力であり、実体を伴わぬ矮小な存在であると思います。それは最早単語の域を超えた歪曲した慣用句でさえも正当化されるものである為、貴殿も気儘にお過ごしください。応援ありがとうございます。 (2020年10月25日 23時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
1 - 聞いた事の無い言葉の羅列でどうにも良くならない頭がパンクしそうですが、読むのは勿論、知らない単語を調べるのも一つの楽しみになりつつあるので、これからもひっそりと応援させて頂きます。頑張ってください！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - あこさん» ありがとうございます。双方力を合わせて緩々と連載して参りますので、よろしくお願いします。 (2020年7月19日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鵯(ひよどり),アムリタ
x他1人 | 作者ホームページ：鵯
作成日時：2020年7月7日 9時
