腸詰ゼリー/ rbr ページ41
#こっちが本番
それが禁忌だと心得ていた。けれど探究心に逆らえる人間など無に等しい。人間は学びを刺激するからこそ文明を築き上げたのだから。故にこれは未知に対する慕情、即ち彼女に対する敬愛である。ところで人は雑食である野生の虫を食べようとはしない。何故か。鹿や猪は狼は害排除の一環で命を奪いはするが、人間はそれを食す。
「なぁ、A。今日はええ薔薇の実が手に入ったんよ。」
滋養に良いとされる薔薇の実は秋を象徴する実りの一つだ。彼女が愛飲していた薔薇の実の紅茶を作る為に態々手塩を掛けて育てた一品だ。彼女の好みは確かストレート。蜂蜜もミルクも砂糖も檸檬も何も入れない。抽出は英国式で濃いめに最後の一滴まで時間を掛けて。
「俺、そんなに料理が上手な訳やないけど、今日のは上手く出来たんやで。」
型に入れて冷やし固めるだけ。単純な工程に思えるかもしれないが、材料が特殊であることと、上質であった為、作業がより難しくなってしまった。先程までで薔薇の花を処理し終わったので、後は熱湯が沸くのと俺の作った特製ゼリーが冷やし固まる迄待つだけだ。
「最期の晩餐がこんなに満足いく出来やって良かったわ。後悔も残らんし。」
彼女の眠る冷たい棺の扉を優しく指でなぞる。この箱には彼女との思い出がぎゅ、と一つに詰まっていた。恋人関係になった記念日。二人の誕生日。ハロウィーンやクリスマスのありとあらゆる豪勢な食事。おせちやバレンタインのチョコレート、何でもない日に食べる味噌汁の材料にちょっと落ち込んだ日に飲んだ安いシャンパン。
「A、殺してもうてごめんな。」
今はその全てが思い出に変わってしまった。彼女の眠るアイアンメイデン。空虚な謝辞がぽつりと不気味に落ちて消える。かちり。遠くから湯の沸く音が聞こえた。俺はがたりと冷蔵庫を開けて彼女を取り出す。冷蔵庫の光に照らされてゼリーが宝石宛らに美しく輝く。葡萄果汁よりも更に鮮やかで美しい赤色。彼女の血液。閉じ込めた彼女の甘い果肉。その全てが今から俺の胃に収まり、俺の血中に取り込み、毒を蔓延させてゆく。人肉は猛毒だ。雑食の為、肉は淡白な味で雑食を消化する際に使われる細菌は数え切れない種類だし、消毒の際の細菌も猛毒を持つものがある。けれど彼女に殺される今がどうにも幸せでならなかった。
著 / 鵯
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ぽんずさん» 毎度お世話になっております野鳥に御座います。お気に召された様で何よりと存じます。お粗末様でした。 (2020年11月8日 22時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず - こそこそ覗いておりました私です。私が大の甘党故タイトルに惹かれ読んでおりましたが御二方の菓子を結んだお話に今尚うっとりしております・・！口の中に広がる違和感、垣間見える狂気に今回も圧巻です。鵯様、アムリタ様、ごちそうさまでした！ (2020年11月8日 10時) (レス) id: cc7e22f34f (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 1さん» 言葉は殊更に束縛されずに故に解き放たれた莫大な力であり、実体を伴わぬ矮小な存在であると思います。それは最早単語の域を超えた歪曲した慣用句でさえも正当化されるものである為、貴殿も気儘にお過ごしください。応援ありがとうございます。 (2020年10月25日 23時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
1 - 聞いた事の無い言葉の羅列でどうにも良くならない頭がパンクしそうですが、読むのは勿論、知らない単語を調べるのも一つの楽しみになりつつあるので、これからもひっそりと応援させて頂きます。頑張ってください！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - あこさん» ありがとうございます。双方力を合わせて緩々と連載して参りますので、よろしくお願いします。 (2020年7月19日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鵯(ひよどり),アムリタ
x他1人 | 作者ホームページ：鵯
作成日時：2020年7月7日 9時
