【wrwrd!】抜骨クッキー【短編集】

その慈愛はまるで、/ htrnrn ページ35

#シュー・ア・ラ・クレーム



私は少し他人より食べるのが遅かった。幼き頃にはそれが原因となって学級内ではやや浮いた存在だった。担任の先生方は口を揃えて、「早く食べなさい」「味わっちゃダメ」「噛まずに飲み込みなさい」「少し量を減らしましょうか」「三角食べをしてみましょう」「一口を大きくしましょう」「もっと早く噛んで」等と出来もしない不可能を叩きつけた。

「ゆっくり食べて良いよ。俺、Aが食べてる姿、可愛いくて、少しでも長く見てたいんだ。」
「ら、ん、らん。」

初めてだった。私が食事する姿を見て貶さない人は初めてだった。麺が啜れなくて少しずつ口に入れる姿を話のネタに笑う事なく、ただ緩慢に咀嚼する様子を幸せそうな笑顔で見詰めている。水を飲む姿ですら一々可愛い可愛いと呟くものだから何だか今迄が全て水泡となって目から溢れ出した。彼は唐突に泣き出した私に目を丸くし、困惑した様に笑って取り出したポケットティッシュを鼻に当ててくれた。ずるずると洟が音を立てた物だから彼はその滑稽さに思わず吹き出してしまった。

「どうしたの、可愛いお顔で泣かないで。こっちまで悲しくなっちゃう。」
「だ、って、そうや、って言わ、れたの初め、てなんだもん。」

彼にそう告げると特別なスイーツを味わって幸せを舌で転がす様に恍惚とした表情で此方を見た。美しい瞳が私の常識を破ってゆく。心の奥深い所に染み込む幸せは例え様も無い程に痛くて同時に温かい物だった。彼は子供の様に泣き噦る私を慰めながら優しい慈愛の篭った瞳で私を見つめた。柔らかくしっとりとした生地に甘い優しさと愛情をたっぷり詰める様に窒息しそうな程の慈愛を私に向ける。僅かに残った麺を食べる気にもならず、落ち着くまで水を飲む様に言われ、彼はただじっと私を待ってくれていた。

「落ち着いた？」
「うん。」
「良かったぁ。それにしても初めてかぁ。今までの人はAのこんなに可愛いところを見つけられなかったんだね。」
「ばか。」



この間、友人から「鵯はゆっくり食べるから待たせなくて済むし、同じスピードで食べれて気が楽」と言われました。食事スピードで悩んでる方にしか分からない悩みかもしれませんが、影の努力を褒められるのはやはり何倍も嬉しいものです。

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