鮮烈なるシャーベット/ tntn ページ31
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「トントン様、お茶をお持ち致しました。」
「適当に置いといて。」
仕事に邁進している俺はいつであれど仕事は佳境であった。本日も溜まりに溜まった様々な書類達を捌かねばならぬ。我々最高機関たるジレンマであれど、国を永久凍土の渦中に沈めるわけにもいかず、今日も今日とて命を必要以上に削りながら、万年筆を滑らせていた。
「大変なご無礼とは存じますが、本日のお茶受けはシャーベットに御座います。」
「じゃ、一旦手ぇ止めるな。」
万年筆のインクが滴らない様に乱雑ながらもホルダーに立て掛けた。またインクが乾燥してしまわない様に液瓶の蓋も閉める。極寒の戦場ならば、問答無用で弾け飛びそうだが、今は夏。その心配は無用だ。俺はこれだけは譲れないと総統閣下(例の如く嫌味な饅頭)に訴えた極上の作業椅子から緩慢に立ち上がる。今のところ、こいつが一番の友であった。そうして唯一簡易食卓が設置された我が仕事場の恩恵を受ける事にした。すぐに俺の挙動を察した彼女が扉付近のサイドテーブルから見た目だけは完璧な豪奢な盆を持ち上げ、俺の給仕に取り掛かった。
「本日の紅茶は気温に合わせまして、冷たいレモンティーをご用意致しました。茶葉はティアネル社のセイロンで御座います。蜂蜜で好みの甘さに調節し、ご堪能ください。本日のお茶受けは要塞でひとらんらん様がご栽培されましたトマトの果汁をふんだんに使用しました、ほんのり甘いシャーベットとなっております。夏の太陽の甘酸っぱい味覚が味わえる一品で御座います。どうぞお召し上がりくださいませ。」
彼女は盆を優雅に持ちながら予め用意していた新しいコースターを取り出し、それを俺の右斜め前に置いた。其処に汗を掻き始めた涼しい色のグラスをことりと置く。中には輪切りにしたレモンと溶け始めた氷がゆらゆらと屈折している。説明をしながら彼女はまだ皿の上で冷え切っている菓子を俺の目の前に置いた。薄赤色の美しい氷菓は見るだけで夏の楽しみを伝えてくれる。俺は軽く彼女に礼を言った。本来ならば夏に舌鼓を打ちながらサロンに据えられた夏の風物詩を堪能出来たのだが、彼女は律儀に俺の予定に合わせてくれたからだ。彼女はトマトより艶のある赤い唇を軽くつりあげて慇懃に頭を下げた。
著 / 鵯
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ぽんずさん» 毎度お世話になっております野鳥に御座います。お気に召された様で何よりと存じます。お粗末様でした。 (2020年11月8日 22時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず - こそこそ覗いておりました私です。私が大の甘党故タイトルに惹かれ読んでおりましたが御二方の菓子を結んだお話に今尚うっとりしております・・！口の中に広がる違和感、垣間見える狂気に今回も圧巻です。鵯様、アムリタ様、ごちそうさまでした！ (2020年11月8日 10時) (レス) id: cc7e22f34f (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 1さん» 言葉は殊更に束縛されずに故に解き放たれた莫大な力であり、実体を伴わぬ矮小な存在であると思います。それは最早単語の域を超えた歪曲した慣用句でさえも正当化されるものである為、貴殿も気儘にお過ごしください。応援ありがとうございます。 (2020年10月25日 23時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
1 - 聞いた事の無い言葉の羅列でどうにも良くならない頭がパンクしそうですが、読むのは勿論、知らない単語を調べるのも一つの楽しみになりつつあるので、これからもひっそりと応援させて頂きます。頑張ってください！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - あこさん» ありがとうございます。双方力を合わせて緩々と連載して参りますので、よろしくお願いします。 (2020年7月19日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鵯(ひよどり),アムリタ
x他1人 | 作者ホームページ：鵯
作成日時：2020年7月7日 9時
