サバラン洗脳/ osmn ページ27
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「Aは俺がおらんと何にも出来ひんなぁ。」
それが彼の口癖だった。今もこうして一言一句違わずに何百回目になるか分からない文言を私に告げる。彼は私の頭を撫でながら幼子をあやす仕草でそう頭に囁き込むものだから私は彼の文言に疑問を持つ事なく、毎度の様にごくり、と嚥下した。それが消化器官を毒染しているとも思わずに。
「まんちゃん、おいしいね。」
「気に入って貰えて良かっためう。」
外交先の老舗甘味店で観光客を装い、購入したというサバラン。彼はそれを丁寧に一口に切り取り、デザートフォークを私の唇に近付ける。ほんのり香る砂糖菓子の様な甘い匂いに釣られて僅かに唇を開けば、其処に菓子を押し込まれた。菓子特有の甘味と共に濃厚な酒精が舌を焼く。
「まんちゃんは、たべないの？」
「俺は先に食べちゃったから大丈夫めう。心配してくれてありがとなぁ。」
美しい翡翠の瞳がぎらり、と歪な熱を帯びた。私はそれを見て見ぬふりで流し、舌に転がる咀嚼物を噛み締めた。口内に広がる甘酸っぱい味覚に舌鼓を打ちながらこの幸福を堪能する。彼は私がサバランを楽しんでいる間に銀製の匙を紅茶に浸す。変色などすることもないカトラリー。元々この紅茶は彼が私の為に淹れた物で更に言及するならば、このティーセットは彼の私物だ。それでも世話焼きで心配性の彼は毎度毒味を怠る事なく律儀に執り行う。彼は浸した銀の匙を抜き取ると木製の匙に切り替えてそれで紅茶を掬った。
「はい、Aちゃん。あーん。」
彼の言葉に従って唇をまた僅かにずらせば、其処に木製の匙が丁寧に挟み込まれる。舌に紅茶の芳しさが垂れて幸せな気持ちになった。程良い温度の液体を堪能しながらこの緩やかな時間が長く続けば良いと願わずにはいられない。彼がまた土産物のサバランを切り分ける風景を見るのが至福の一時だった。
「まんちゃん、いつもありがと。」
「俺も。いつも側におらせてくれてありがとな。」
蛇の目の様に鋭利に企む視線など白痴に沈むが好都合。私の知っている彼は甘くて優しくて私をいつも気遣ってくれる博識な人間だ。それが全てでそれ以外の彼など存在するはずもない。蛇の腹の暗算など私は知る由もない。
著 / 鵯
蠢動、生キャラメル/knsm→←ジャムタルトの譫/grppen
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ぽんずさん» 毎度お世話になっております野鳥に御座います。お気に召された様で何よりと存じます。お粗末様でした。 (2020年11月8日 22時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず - こそこそ覗いておりました私です。私が大の甘党故タイトルに惹かれ読んでおりましたが御二方の菓子を結んだお話に今尚うっとりしております・・！口の中に広がる違和感、垣間見える狂気に今回も圧巻です。鵯様、アムリタ様、ごちそうさまでした！ (2020年11月8日 10時) (レス) id: cc7e22f34f (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 1さん» 言葉は殊更に束縛されずに故に解き放たれた莫大な力であり、実体を伴わぬ矮小な存在であると思います。それは最早単語の域を超えた歪曲した慣用句でさえも正当化されるものである為、貴殿も気儘にお過ごしください。応援ありがとうございます。 (2020年10月25日 23時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
1 - 聞いた事の無い言葉の羅列でどうにも良くならない頭がパンクしそうですが、読むのは勿論、知らない単語を調べるのも一つの楽しみになりつつあるので、これからもひっそりと応援させて頂きます。頑張ってください！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - あこさん» ありがとうございます。双方力を合わせて緩々と連載して参りますので、よろしくお願いします。 (2020年7月19日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鵯(ひよどり),アムリタ
x他1人 | 作者ホームページ：鵯
作成日時：2020年7月7日 9時
