プディング/ zm ページ16
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「ゾ、ム……？」
「……。」
背後からぎゅ、と抱きしめられる。大男の殺人鬼と雌人狼の個体差なんて歴然で、私はすっぽりと彼の身体に包まれてしまった。繁殖期に番った雄の様に頸に頭を埋められて匂いを嗅がれる。しゅー、しゅーと仮面から漏れる彼の呼吸音だけが響いていた。どうしたのだろうか。彼は意外にも寂しがり屋なので、無意識の内に埋まらない焦燥感に安寧を求めたのかもしれない。
「く、苦しいわ。嬉しいけれど、圧迫死しちゃう。」
「……。」
幾ら雌人狼で普通個体の人間より強靭な身体を持つとしても彼は例外だ。私よりもずっと屈強な身体を持つ彼とでは天地程の差がある。彼に苦しいと訴えれば、彼は漸く力加減を間違えている事に気が付いたらしく、慌てて抱擁を解いた。途端に呼吸が楽になると同時に分断されていた肺に溜まった空気の塊が反動で排出される。彼は私を割物の様に丁寧に私を再度抱きしめた。ふんわりとした何処までも甘く優しい時間に目を細める。彼は小さな監獄を片手で作り出して私を閉じ込めると片方の指で優しく頭を撫で始めた。
「ゾムの撫で方、好きだわ。本当に気持ちが良いもの。」
「……。」
髪の毛を優しく撫でてくれる大きな彼の手が大好きだ。上から頭蓋骨の感触を確かめるだけの所作。人狼特有の人間よりやや大きい耳の後ろまで指を通す丁寧な撫でかたが大好きだ。彼に愛されていることを実感出来て幸せだった。彼は暫く撫でた後、ちらりと卓上の皿を見詰めた。
「あら、残り一口ね。ゾムも食べてみる？」
「……。」
彼は頭を緩く横に振った。殺人趣味はあれど食人趣味はないらしい。皿の上に残った一欠片の人間の脳味噌。どの部位よりも柔らかくそして甘い。舌に絡み付く様な濃厚な食感は今までの食餌の中で一番美味であった。銀色のフォークがぐちゅりと音を立てて蛋白質に突き刺さる。
「ふふ。美味しかったわ、ご馳走様。」
「……。」
人狼らしく下劣にカトラリーを唾液で満たす。口の中で弾ける濃厚な最後を嚥下して彼に微笑んだ。彼は私をじっとりと見詰めると、抱えていた私をクッション性が軋んだソファの上に座らせた。仮面の奥の瞳が愛しさに歪んでいたことに胸がいっぱいで仮面の上から愛を唇に落とした。
著 / 鵯
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ぽんずさん» 毎度お世話になっております野鳥に御座います。お気に召された様で何よりと存じます。お粗末様でした。 (2020年11月8日 22時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず - こそこそ覗いておりました私です。私が大の甘党故タイトルに惹かれ読んでおりましたが御二方の菓子を結んだお話に今尚うっとりしております・・！口の中に広がる違和感、垣間見える狂気に今回も圧巻です。鵯様、アムリタ様、ごちそうさまでした！ (2020年11月8日 10時) (レス) id: cc7e22f34f (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 1さん» 言葉は殊更に束縛されずに故に解き放たれた莫大な力であり、実体を伴わぬ矮小な存在であると思います。それは最早単語の域を超えた歪曲した慣用句でさえも正当化されるものである為、貴殿も気儘にお過ごしください。応援ありがとうございます。 (2020年10月25日 23時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
1 - 聞いた事の無い言葉の羅列でどうにも良くならない頭がパンクしそうですが、読むのは勿論、知らない単語を調べるのも一つの楽しみになりつつあるので、これからもひっそりと応援させて頂きます。頑張ってください！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - あこさん» ありがとうございます。双方力を合わせて緩々と連載して参りますので、よろしくお願いします。 (2020年7月19日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鵯(ひよどり),アムリタ
x他1人 | 作者ホームページ：鵯
作成日時：2020年7月7日 9時
