プディング/ zm ページ15
#グロテスクな話
「美味しいわ、ゾム。」
「……。」
彼は寡黙な人間だった。元々やや恥ずかしがり屋で引っ込み思案な人間だが、ある事故をきっかけに声を放棄してしまってからめっきり私と会話を交わさなくなった。幼少の頃より環境に恵まれなかった彼は識字能力が無い為、筆談すら成立しなかった。けれど彼はそれでも私の側にいてくれた。
「ゾムも食べる？」
「……。」
ふるふる。彼は横に頭を振った。ぎょろりと仮面から覗く瞳は遠慮の意思はないらしい。空腹では無いのだろう。もしくは単に嗜好範囲では無いのかもしれない。私は極力彼の意見を尊重するつもりでいるので無理強いはしなかった。彼は無理強いされるのが酷く苦手だからだ。
「そう。じゃあ、これは私の独り占め、ね？」
「……。」
悪戯に微笑んでみれば、彼は私を見詰め、目を細めた。人より少し明るい色の睫毛が仮面の奥の暗闇で幸せそうに歪む。どうやら笑っているらしい。こくこくと頭を上下させる様子からこの卓上の皿のプリンは私の物でいいらしい。次の一口を求めて口を開けば、彼は一口サイズに切り分けたプリンを優しく口元に寄せた。
「んー！やっぱりゾムはグルメね。外れが無いわ。」
「……。」
彼の差し出したフォークに唇を沿わせて口内に迎え入れた。ぐじゅりぐじゅりと独特の食感に恍惚とする。口一杯に広がる旨味はとても筆舌出来ない程に美味であった。この一つ一つの何とも言えない細胞がぷるぷると口内で震えて私を至福の境地へと導いてくれるのだ。
「こんなに素敵な旦那様といられて、私は幸せよ。」
「……。」
口内の蛋白質を嚥下してから、此方をじっと観察している彼の腕に抱き付く。大きくて太い如何にも彼の大男らしい屈強な腕のがっしりした感触が大好きだった。彼の森で衰弱し、死を待つのみとなった私を抱き上げてくれた大きく厚い掌とあやしてくれた太い腕の感触は今でも忘れられない。
「わ、びっくりした。ふふ、ゾム、あったかい。」
「……。」
ぎゅ、と腕に飛び付いて抱き締めると彼は一瞬、驚愕の表情を浮かべた。しかし、私が愛情表現の一種で戯れ合いをしていることを理解すると、もう片方の手で私を腕から引き離し、自分の脚の上に座らせてくれた。
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鵯(ひよどり)(プロフ) - ぽんずさん» 毎度お世話になっております野鳥に御座います。お気に召された様で何よりと存じます。お粗末様でした。 (2020年11月8日 22時) (
レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず - こそこそ覗いておりました私です。私が大の甘党故タイトルに惹かれ読んでおりましたが御二方の菓子を結んだお話に今尚うっとりしております・・！口の中に広がる違和感、垣間見える狂気に今回も圧巻です。鵯様、アムリタ様、ごちそうさまでした！ (2020年11月8日 10時) (レス) id: cc7e22f34f (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 1さん» 言葉は殊更に束縛されずに故に解き放たれた莫大な力であり、実体を伴わぬ矮小な存在であると思います。それは最早単語の域を超えた歪曲した慣用句でさえも正当化されるものである為、貴殿も気儘にお過ごしください。応援ありがとうございます。 (2020年10月25日 23時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
1 - 聞いた事の無い言葉の羅列でどうにも良くならない頭がパンクしそうですが、読むのは勿論、知らない単語を調べるのも一つの楽しみになりつつあるので、これからもひっそりと応援させて頂きます。頑張ってください！ (2020年10月25日 22時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - あこさん» ありがとうございます。双方力を合わせて緩々と連載して参りますので、よろしくお願いします。 (2020年7月19日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鵯(ひよどり),アムリタ
x他1人 | 作者ホームページ：鵯
作成日時：2020年7月7日 9時
