それだけ.14 ページ15
みわを保健室に連れてったあと、やばいやばいもう少しで一限だなんて思って廊下を走る。
でもそこまでみわが鈴宮を好きだったなんて。
ちょっとうらやましいな、と思った。
最近は告白されたからとりあえず付き合う、みたいなことが多いなか、みわはちゃんと自分の強い気持ちをもって行動しとる。
……私は、どうなんやろうか。
土曜の、少しだけ無愛想だった宮を思い出す。
そこまで仲いいわけやないけど、それくらい私やってわかる。
試合前に声かけん方がよかったんかな、
集中しとったんかななんて思っても仕方ないことは知っとる。
でも話せんくなるのは嫌やなあ。
もうすぐ予鈴なるから、廊下には人はおらん。
まあ少しくらい遅れたっていいかなあ。
「A」
こんな忙しい時になんだ。
あれ、なんでもう一限始まるんに声がするん。
それに、聞いたことがある、男子にしては低過ぎない声。
土曜に、聞いたばっかりのような、声。
まさか、と思ってばっと振り返る。
「み、侑」
ーーやっぱり。
彼の表情には、もうすぐ授業だってのに焦りはひとつもない。いつもみたいに感じが良さそうな顔をしていた。
「どしたん？もう授業はじまるで」
そんなんわかっとるわ！
なんて流石に言えない。
「ちょっとね、侑はなんでおるん？」
内心驚いてドギマギしながら、でもそれを感じ取られたらかっこ悪いから私もいっつもと同じように言う。
彼は、楽しそうに目を細めた。
私のより長くて、すこしゴツゴツとした人差し指を唇にあてる。
その一連のモーションがすごく綺麗で、魅力的で、思わず目を奪われた。
「内緒」
「……なんなん、それ」
少しむっとする。
この人はこうやって女の子を落としていくんやろうか。
でも、今の私はそれどころじゃないのだ。
「はやくいかんと遅れるよ！行こう！！」
そう言うと彼は驚いた。
そして、少しだけ笑った。
「一限くらいいいやん、まじめやなあA」
私は真面目なんかな。いやそれは違う。
「侑が不真面目なんやない？」
肝が座っとるなあ、なんて少し感心。
「じゃあ私は行くよ、」
そう言って去ろうとした。
前を向いてはしる。
はしる。
でも、私はすすめなかった。
手首にある感覚。
気づくのに時間はかからなかった。
パシッという音とともに、私は元の位置に引き戻される。
「……Aも一緒にサボろうや」
聞こえたのは、悪魔のささやきやった。
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作者名：やふ | 作成日時：2018年7月13日 21時
