濵田の場合 (ページ8)

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「今日こそ早く帰って溜めてたドラマでも見ようと思ってたのになぁ」

『これ明日の資料？今からすんの？』

「30部用意するみたいです」

『30部？！紙の無駄使いやん！』

目を丸くする濵田さんが可愛く見えた。

私が新入社員だった1年目のOJT担当が濵田さんだった。その時だって慣れない環境に苦戦する私を、いつだってそばでフォローしてくれた濵田さん。

いつしか、“仕事の先輩”以上の感情を抱くようになっていたものの、前には進めずに時は流れた。

あれからもう3年も経つ。
濵田さんとの業務は少しずつ離れて、今では関わる機会がほとんどない。

『この企画大変やんな』

その言葉に喉の奥がぎゅっと締まるのを感じた。

濵田さんがいたから頑張れた1年目とは違い、仕事量は倍以上に増えたうえに、新人の教育を押し付けられるわ、上司からは理不尽に怒鳴られるわで、何のために仕事をしているのか分からなくなっている自分に嫌気がさす。

「……もう疲れました」

思わず漏れた本音は消えそうなくらい小さかった。

私ダサすぎだ。
こんなかっこ悪いとこ、濵田さんに見て欲しくない。

『珍しいな』

「…何がですか」

『Aちゃんが弱音吐いてる』

「私も人間なんでね」

そう言えば、濵田さんハハッと目を細くして笑った。

その顔にまた癒されて、仕事頑張れそうとか思ってる私の脳内は、バカで単純な思考回路だと思う。

この人の言動１つ１つが自分につながっている。

いつからこんな愛おしくなってたんだろ。というか、いつまで片想い続けるんだろ。

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