66話 兄にとって ページ18
サッカーの特訓を終え、明日の準備をしていた円堂守に、扉が開く音が聞こえた。
母親はキッチンで料理にかかりきりのようだから、恐らく妹が帰ってきたのだろうと思い、一階へと降りる。
「おかえりーリコー！なぁ、今日ってフットボールフロンティアの決勝戦だったんだろ！」
「…うん」
「どんな試合だっ…」
あれ、と首をかしげる。
いつもより元気が無い。
妹は普段から感情を隠したがる傾向がある。俺にはよく分からないが、多分世渡り術って奴なんだと思う。
けれどそのせいで、なかなか何かあっても気付けない。
だけど、ここまで表情に出てるなんて、そこまでリコを落ち込ませることがあったのだろうか。
「…」
「リコ？どうかしたのか？」
「なんでも、ないよ」
「…そっか」
家に上がるリコの通り過ぎざまに見えた顔は、いつにない無表情だった。
ああ、この顔は、何かを必死に押し殺している顔だ。
押し殺して、押し殺して、表情を繕う余裕さえない滅多に見ない顔。
「なー、リコ」
「なに？兄さん」
リコは強情なところがあるし、きっと自分には詳しくは話してくれないのだろう。
俺たちがサッカークラブをたらい回しにされた時に、一番傷ついたのはリコで、怒るのを見たのはあの時が初めてだった。
それも、自分がたらい回しにされたことにじゃなく、俺がされたことについて。
優しい妹で、何でもないように見えて、誰かが傷つくのを恐れている。
それで、どこか自分を軽んじている。
何か、は分からない。
けれど、何かを隠しているのは何となく分かるのだ。
俺の、妹だから。
頭が良くて、優しくて、俺が何か困ったら「しょうがないなぁ」なんて笑って助けてくれる。頼もしい妹なのだ。
何を隠しているかは関係無い。
何であろうと力になりたい。
何か声をかけるか数瞬間迷って、何を言えばいいのか逡巡して。
「リコ。何があろうと、いつでも俺はお前の力になるからな」
「…っ。う、ん」
そう言って、親指を立ててにかりと笑ってみせる。
するとリコは一瞬目を見開いてから、眩しそうに目を細めて、部屋へと戻っていった。
「ホント、俺の妹って強情だよなぁ」
一瞬だけ、彼女の瞳には驚きと喜びが。
後書き
彼だってお兄ちゃんなのです。
あと遅れてすんません(白目)
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黒牡丹(プロフ) - モモさん、コメントありがとうございます。こうやって直にコメント貰えると、やっぱり応援されてるって分かって作者はとても嬉しいです。これからも精進していきますよ！ (2019年2月20日 22時) (
レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 夜さんコメントありがとうございます。いやほんと、ここまでお待たせして申し訳ありません……これからはなるべく早く頑張ってみます……私のペースだと完結するのに何年かかるか……。 (2019年2月20日 22時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
モモ(プロフ) - うおお…！密かに応援していた者です。ゆっくりで良いので頑張ってください( ´∀｀) (2019年2月17日 8時) (レス) id: 9f311d580c (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 更新ありがとうございます！楽しみにしていたのでとても嬉しいです！これからも黒牡丹さんのペースで頑張って下さい！ (2019年2月17日 0時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 夜さん、コメントありがとうございます。三ヶ月越しのコメント返しとか本当殴られても文句言えませんわすみません。これからはそんなに間を空けないようにしますですはい、頑張ります。これからも宜しくお願いします。 (2019年2月16日 23時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒牡丹 | 作成日時：2018年3月5日 21時
