93話 ページ4
「え…?」
上手く聞き取れなかった。
「だから、
僕にバレーを教えてよ!」
思いもよらぬ言葉だった。
「ちょ、ちょっと、三郎!」
すかさず母親が三郎くんの口を塞ぐ。
俺に対しての気遣いのつもりなのだろう。
しかしその言葉は絶望に浸っているだけだった俺にもたらされた初めての光だった。
「良いよ」
気付いたらそう言っていた。
母親も面食らった様に手の力を抜いた。瞬間三郎くんは表情を輝かせる。
「本当!?」
俺は頷き、左手の薬指を差し出す。
彼もそれを見て左手の薬指を出して絡めた。母親は叱咤するかと思いきや優しく微笑み咎めはしなかった。それを確認して、目を合わせて二人で決まりの音頭を唱える。
「指切った!」
子供なんて今までの俺なら嫌いで、絶対断ってたと思う。
でも、
もうコートには立てないかもしれないけど
この子の為になるならばそれも良いかもしれない。満開の笑顔を見ていたらそう思えた。
「お兄ちゃん、ありがとう!
またお見舞い来ても良い?」
自然と口元が綻ぶ。首を縦に振った。
___その約束は確かな俺の希望となった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「そんなことがあって、今一緒に練習してるんだ。…三郎くんさ、中々センスあるんだよ」
三郎くんはよっぽど良い子なのだろう。及川さんが嫌味一つ言わずに褒めるのは珍しい。
「教える度に上手くなっててさ。
ひとつ出来るようになると笑顔で返してくれる」
様子からして、及川さんは今の状況に不満をあまり感じていないのだろう。寧ろ充実してすらいるのではないのか。
「それを見て自分でプレーするだけじゃなくて人に教えて、
その成長を見届けることの喜びに気付かされた。
前の俺なら焼き餅妬いて突っぱねてたと思う。…けど、俺の中で何かが落ちたんだ」
終始微笑みを浮かべて。
「今の俺があるのはそういうことだよ」
*
少しの間の後。
「…凄い長い前置きですね」
「まあね」
今のところそれと影山がどう繋がってくるのかが見えてこないが素直に聞いていよう。
「うーん、言うなれば嫌いな筈のピーマンを食べたら意外と美味しくてそのまま食べ続けちゃう感じ?」
その例えに変に納得してしまい、不覚だが笑ってしまう。
「及川さんは好きですかピーマン」
何と言う訳でもないけど聞いてみた。
「今なら美味しいって言えるかも」
「じゃあ…試してみます?」
後で及川さんにはピーマンを箱買いしてプレゼントしよう。
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タマじろう(プロフ) - 好きです!!!!!! (2018年2月5日 19時) (レス) id: b5d9019b7f (このIDを非表示/違反報告)
かんとりーまあむ(プロフ) - 太宰LOVEさん» 本当にすみません( ; ゜Д゜)私も気になります…取り敢えず3月に入ったら更新再開させて頂こうと考えていますので…応援ありがとうございます、頑張ります!! (2018年1月11日 21時) (レス) id: b3b236b351 (このIDを非表示/違反報告)
太宰LOVE(プロフ) - 及川さん…続きが気になります!負担にならない程度でいいので頑張ってください!応援して待ってます! (2018年1月11日 20時) (レス) id: cec77dea89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんとりーまあむ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hagen279061/
作成日時:2016年12月10日 16時