1話 ページ1
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気がつくと、雑踏の中心に座り込んでいた。
見渡す限りの人、人、人。
しかしそれだけ沢山の人がいても、座り込むわたしに目を向ける人間は誰一人としていなかった。
それまでの記憶は何一つなく、自分が何者なのかすらもわからない。
なぜこんなところで、一体いつから座り込んでいるのだろう。
何も分からない、なにも、なにも。
『………だ、れか…わたしは、だれ…?』
立ち上がり、道行く人に手を伸ばして問うた。
誰も返事をしてくれない、誰も目を向けない。
だれにも、触れられない。
すか、と人体をすり抜けた手のひらをじっと見つめ、ようやく一つの事を理解した。
あぁ、わたしって。
『おばけ、なんだ…』
理解した途端、無性にかなしくなった。
どうせ誰にも見えないのだからと、わぁわぁ泣き散らした。
なんだか周りが騒がしいけど、そんなのしらない。
ただ、かなしいだけだった。
「ねぇ、そこの泣いてる君」
『……ぇ?』
涙でぼやけた視界には、白い髪の目隠しした人が立っていた。
いつの間にかあれだけ沢山いた人たちはみんな居なくなって、目の前の彼ただ1人だけになっていた。
目隠しの人はポケットに手を入れたまま近づいてきて、わたしの目線に合わせてしゃがんだ。
「飴は好き?」
『…たぶん、すき』
彼はわたしの返事を聞き、にぃっと口角をあげた。
そして、ポケットから飴玉を1つ取り出してわたしに渡した。
いちごミルク味と書かれている。
『……食べていいの?』
「もちろん、なんならまだあるよ」
そう言ってポケットをがさがさと鳴らしてみせた。
さっきまですごくかなしかったのがウソみたいに、何だかおもしろくて思わず笑った。
「…ふふ、やっと泣き止んだね。
君、名前は分かる?」
『わかんない、なにも…』
「そうかい、ならいい」
目隠しの人はよいしょ、と言って立ち上がった。
今気づいたけど、この人ものすごく背が高い。
わたしが顔を見上げていると、わしゃっと頭を撫でられた。
「僕は五条悟、悪いけど着いてきてくれないかな」
これが、わたしと悟の出会いだった。
悟に見つけてもらえなかったら、今頃きっと悪い霊になってたと思う。
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まっちゃ - すごく面白いです!更新待っています! (2021年11月8日 22時) (レス) @page9 id: bd6a8b3525 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - とても面白いです。無理しない程度に更新頑張ってください!応援してます。 (2020年12月24日 19時) (レス) id: d92207b260 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 夢主ちゃん、めっちゃ可愛い!H×Hのアルカに重ねて読んで毎回萌えてます!!もしよければ1話だけでも「おねだり」テーマに書いてもらえると嬉しいです。 (2020年12月14日 23時) (レス) id: 58c76fca2c (このIDを非表示/違反報告)
勿忘草 - 「悪いおばけじゃないよ」が、脳内で「悪いスライムじゃないよ」に何故か変換されました (2020年12月13日 12時) (レス) id: a69079c5f6 (このIDを非表示/違反報告)
氷雨霰 - 大丈夫だと思います!初コメ失礼しました!(コメントの文字数制限が来たので再びコメントさせていただきました) (2020年12月13日 0時) (レス) id: 7e61cd56ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぷっち | 作成日時:2020年12月9日 20時