変わらない記憶でも。 (ページ23)

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八乙女side

現在(いま)へ戻ってきてから、しばらく経つと不思議なことに店長が作るものと全く同じサンドウィッチが出てくる。

でも俺はそれどころではなかった。

もしかしたら、俺のあの言葉で店長が病院に行ったかもしれない。

そして今も、生きてるかもしれない。

そんな微かな期待があったから。

山｢あの…………。｣

すると、先ほど俺を過去に戻らせてくれた店員さんが声をかけてくる。

八｢はい……？｣

山｢過去にお戻りになる際に注意事項を説明させて頂きましたが、ここでお客様がどんな行動をしたとしても、今が変わることはありません。｣

どうやら、俺が考えていることが全て読み取られているようだった。

山｢……それがたとえ、どんなにいなくなって欲しくない人だったとしても。｣

…………だとしたら、今の俺の行動は全て無駄だった？

俺がただ意味もなく悪あがきをしていただけだったのか？

八｢そんなの……分からないじゃないですか。｣

山｢分かるんです。

そのようなお客さんを今までもたくさん見てきたので。｣

真っ直ぐな眼差しでそう話す店員さんに、思わず言葉を飲み込んだ。

山｢……皆さん、淡い期待を持ってこのお店から出ていくんです。

でも、もちろんその方が望まれた未来は現在(ここ)には無い。

それが受け入れられなくて、誤った選択をしてしまう方もいました。

この力は、魔法じゃないんです。

…………過去を自由自在に変えられるような。

だから、貴方も現実を受け止めて欲しい。

でも貴方がやったことが無駄だったわけではないと思います。

きっと、それは店長さんにも届いていたはず。

この力はあくまで過去に戻ることが出来るだけで、その後の未来は八乙女さん、貴方が決めるんです。｣

少し涙目になりながら、真剣に語りかけてくれる店員さんになんだか申し訳ない気持ちになった。

八｢実は…………

あの店長のように、みんなに親しまれたお店で働くことが夢でした。

そしてあわよくば店長の弟子として。

…………でも、それは叶わなかった。

だから店長の病気を事前に教えてあげられていたら、なんて。

……それは甘い考えだったんですね。

でも店員さんに言われて決心がつきました。

俺、もう一度夢を追ってみようと思います。｣

俺がそう言うと、あの店長のような優しい笑顔で頷いた店員さん。

俺の心の中にあったモヤモヤが嘘みたいに無くなっていた感じがした。