第54話 回想 ページ5
物心ついた頃から工具を片手に色んな物を分解しては組み立てていた。
普段身の回りにある物がどうやって作られているのか気になる、という探究心が強かったらしい。
父が教師をしていたこともあり、家には大量の本があった。
自力では分解できない家や馬車の造り方は本で学び、自分で家の設計図を描いたりしたこともある。
描いた設計図を兄に見せると、兄はいつも褒めてくれた。それがたまらなく嬉しかった。
兄は調査兵団の兵士。普段は兵舎で寝泊まりしていて、家に帰ってくるのはたまにある非番の日だけ。
それでも非番の日は必ず帰ってきて遊んでくれる。そんな優しい兄が大好きだった。
6歳になった頃、街の教室に通い始めた。
教室で習うことは既に本で読んだことがある内容ばかりで退屈。授業中でも設計図を描いたり学術書を読んだりしていた。
同じ教室の子どもたちはそんな自分を変わった子だと言って距離をおいていた。
一緒に遊ぼうと声をかけてくれる子もいたけど、興味がわかなくて全部断る。
そんなことを繰り返しているうちに、自分に関わろうとする者は誰もいなくなった。
それでよかった。1人でいる方が自分の世界に没頭できて楽しい。
この頃から兄があまり家に帰ってこなくなった。分隊長に就任して仕事が忙しくなったらしい。
教室で1人でいるのは楽しい。でも大好きな兄に会えないのは寂しかった。
集団の中で浮いている自分の陰口を言う者もいたらしいけど、全く気づかなかった。ただ一つの言葉を除いて。
あるとき同級生が、兄と自分は兄妹なのに全然似ていないと指摘した。
親子や兄弟姉妹というものは似ているものだと本で読んだことがある。
そこで、今まで気にしていなかった自分の容姿に目を向けた。
兄や母、肖像画で見る父はみんな綺麗なブロンドの髪。それに対し自分は墨のような黒色。目の色も違う。
どうして自分だけが違うのかわからない。いくら本を読み漁ってもこんな事例はなく、髪色を変える方法も出てこない。
兄も母も気にするなと言ってくれたが、自分の容姿が嫌いになった。
お小遣いをもらうようになってからは工具や資材を買って、イチから物作りをするようになった。
自分で描いた設計図通りに組み立てていくのが楽しくて、教室に行く以外は物作りに没頭する日々。
友達もおらず家に引きこもる自分に、兄は少なからず心配していたようだ。
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わたがし(プロフ) - レナさん» ご指摘ありがとうございます!原作第106話「義勇兵」にて、マーレの兵士が『穢れた血』と表現していましたので、それをそのまま使用しました。紛らわしくて申し訳ありません。『島の悪魔』の方がわかりやすかったですね(汗) (12月7日 12時) (レス) id: 299a057106 (このIDを非表示/違反報告)
レナ(プロフ) - すごく面白いです!訂正をしていいのか分かりませんが、85話の話で出てくる穢れた血ではなく、島の悪魔なのではないでしょうか? (12月7日 9時) (レス) @page41 id: f9e6be770b (このIDを非表示/違反報告)
わたがし(プロフ) - 琴さん» 最高だなんて嬉しいお言葉、ありがとうございます!不定期な更新ですが、今後ともよろしくお願いします! (11月27日 14時) (レス) id: 299a057106 (このIDを非表示/違反報告)
琴(プロフ) - もう最高に面白いです!更新頑張ってください! (11月26日 10時) (レス) @page33 id: e939615bba (このIDを非表示/違反報告)
わたがし(プロフ) - きぬさん» コメントありがとうございます!まだまだ続きますので、今後も楽しんでいってください! (11月20日 17時) (レス) id: 299a057106 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わたがし | 作成日時:2023年11月2日 12時