君死にたまふこと勿れ

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『……今日は、殺しの依頼だった』

「…あぁ」

『殺し屋からの依頼だった。"ある権力者を亡き者にして欲しい。そいつの家族や友人・知人、同じ空間にいる人間は1人残らず殺せ"って。……裏切り者だったの、その権力者っていうのは。だから消される……よくある事よね』




そう、よくある事。



情報屋 兼 殺し屋なんて仕事をしていれば、そういう事には日常茶飯事で出会う。



裏切って、裏切られて、また裏切って。



組織のためにいわゆる"権力を持った使える人間"と繋がりを持つのは珍しいことじゃないし、用済みになれば始末されるのもよくあるパターンだ。


私だって同じような案件は何度も経験しているし、今さらそんなこと(・・・・・)で気をやられるほどか弱くはない。




では、何故か。




『………赤ちゃんが……赤ちゃんが、いたの。私が殺した女の人………妊娠してたの』



静かに座るボンベロのコック服を、きゅっと掴む。



『私はっ……なんの罪もない、まだ産まれてさえいない命を、この手で葬ってしまった……っ！』



溢れ出る涙で視界が歪み、目の前の白色がぼやけた。



嗚咽を漏らしながらただただ泣く私を、ボンベロは優しく抱きしめてくれる。


背中に添えられた大きな手が暖かくてとても安心して、子供みたいに声をあげて泣いた。



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