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幸せそうにパンケーキを頬張るAを無言で見つめながら煙を燻らすボンベロを盗み見て、カナコはボンベロとAの関係がただならぬもののような気がして、しかしそれを聞く勇気は出ず、1人静かに思考を巡らせるにとどまった。
『美味しかった!ごちそうさまでした』
ペロリとパンケーキを完食したAは、満足した様子で手を合わせた。
その様子が、まるでなんてことない食卓の一場面のようで、カナコはここが殺し屋の集う物騒な食堂だという事を忘れそうになる。
カナコには、つくづくAとこの場所が不釣り合いに思えてならなかった。
「満足したなら大人しく帰れ」
『え〜、私これからカナコちゃんとお話しようと思ってたのに…』
「話ならいつでもできるだろう。いいから今日は…」
ボンベロがそう言いかけたところで、電話がけたたましく鳴り響いた。
チッ、と不機嫌そうに舌打ちすると、ボンベロは葉巻を消し潰して電話を取りに席を立つ。
厨房の方へ向かったボンベロの背中を見つめていたAは、その姿が見えなくなるとカナコに話しかけた。
『…カナコちゃんも大変だよね。ボンの命令に従うのは疲れるでしょ?』
「はい、まぁ…」
『もっと優しくすればいいのにね…。ボンったらいっつも眉間にシワ寄せて、気難しい顔してるんだもん。ほんとはすごく優しいし、いい人なのに…ぜったい、いいひとなのに……』
「…A、さん……?」
カナコに話しかけながら、だんだんとAの瞼はとろりと下がる。
そのうちカウンターに突っ伏してしまったAにカナコが声をかけるが、穏やかな顔の瞼は閉じられていて何の反応も返ってはこなかった。
「10分後に客が来る。店を開ける準備を…」
「ボンベロ、その…Aさんが……」
電話を終えてホールに戻ってきたボンベロは、カウンターに突っ伏して無防備に眠るAにため息を吐いた。
呆れ顔のままAの傍に歩み寄ると、自然な動作で彼女の膝裏に左手を差し込み、右手で背中を支えてぐっと抱き上げた。
「俺はこいつをベッドに置いてくる。お前はそこの皿を片付けて、次の準備をしておけ」
眠るAを横抱きにしたボンベロの姿に、その場で固まったまま動かないカナコ。
低く恐ろしい「返事は」の声にハッとしたカナコは、短く返事をして急いで片付けに取りかかった。
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ねこと(プロフ) - omoti_motimoticさん» 素敵なお言葉頂けてとても嬉しいです(*'ω'*)世界観やキャラクターはできるだけイメージを壊さないよう気を付けているつもりなので、そう言って頂けると活力になります!ちょっと停滞してしまってますが更新頑張りますので、また覗いて頂けたら嬉しいです♪ (2020年7月7日 2時) (レス) id: c0f23ad842 (このIDを非表示/違反報告)
omoti_motimotic(プロフ) - ああもう素敵すぎます!!dinerの世界観やキャラクターが崩れることなくキュンキュンさせてくださって最高の作品をどうもありがとうございます、、!! (2020年7月5日 22時) (レス) id: 96016ea486 (このIDを非表示/違反報告)
ねこと(プロフ) - えいとちゃんさん» 応援ありがとうございます!また、お気遣いもありがとうございます(*'▽'*)更新頑張りますので、また覗いて頂けたら嬉しいです♪ (2019年8月17日 8時) (レス) id: f77f241a94 (このIDを非表示/違反報告)
えいとちゃん(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます!!風邪などに気をつけてください! (2019年8月15日 2時) (レス) id: 7956a8a6f2 (このIDを非表示/違反報告)
ねこと(プロフ) - アリアさん» 応援ありがとうございます!めちゃくちゃ好きだなんて…すっっごく嬉しいです♪更新頑張りますので、また覗いて頂けたら嬉しいです(*'▽'*) (2019年8月5日 16時) (レス) id: c0f23ad842 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねこと | 作成日時:2019年7月28日 22時