【QK】オダマキに反旗を (ページ6)

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Ⅵ.sgi ページ6

花束を抱えて病室のドアを開けた。今まで空だったベッドに腰掛けた知らない老女がこちらを驚いて見ていた。慌てて部屋横のプレートを確認し、一礼して部屋を出る。部屋を間違えたような素振りを見せておけばきっと大丈夫、なはず。カモフラージュが上手くいったかは知らない。

持ってきた花束を横に置いてベンチに腰掛ける。噴水の音だけが響く中、ため息をついた。老女がいた部屋は元々は同期の部屋だった。同じ授業をよくとる、気の合う女友達だった。恋愛感情を抱きつつも、向こうからの明確な好意が見えなかったが為に親友以上恋人未満な関係をダラダラと続けていた時、彼女は倒れた。教授が救急車を呼んだらしいが、俺には赤いライトとサイレンの記憶が無かった。

そんなにショックを受けるくらい好きだったのか、と少し驚いて、直ぐに開き直った。人生をそれなりに生きて、世界の真理は分からなくとも自分の感情くらいは理解できるかなと思っていたのにまだまだだった。溢れ出る感情を止めることは諦めて、必死に隠しながらお前を訪ねた。恋愛的好意は相変わらず感じなかったけど、信頼関係よりもマリアナ海溝よりも深い関係性が築けているから別にいい、と思うくらいまでになった頃に、隠す必要は無くなった。

「お前のためだったのに」

花束を持っていく度にお前はナイスガイなのに似合わないね、と大きく口を開けて笑ったよな。知らないと思うけど、結構傷ついてんのよ。ナイスガイは案外ナイーブなので。もっとも、好きな人限定だけど。だからお前がこの病室から居なくなっても意地で花束を抱えている。あの時から随分と時間が経った。でもお前は、あの頃よりも垢抜けた今の俺にも似合わない、と言うんだろうな。俺にはその光景が見えてるよ。

物理屋の俺もお前も、観測できないものはあんまり信じたくないだろうけど、それにはいくつか例外がある。時間や宇宙みたく難しい理屈や定理をこねる必要は無いのに、俺達の間にはとっても複雑な式があったんだろうな。お前が居なくなってから、俺は一人でその計算式を解いている。いつかQEDをつける時には似合わないこの花束を受け取って欲しい。

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