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食器と箸のぶつかる音が響く。
コップを机に置く音、咀嚼音、嚥下音。
俺と、舘さんだけがその音の中に存在していて、同じ空間にいるはずのAの音が何も聞こえない。
寝息すらも感じなくて不安になる。
唯一、上下する胸にAが生きていることを感じた。






「……ひとりになりたくないって、いつから思うようになったんだろうね」
「どうだろ、」
「俺たちさ、目黒やラウールや康二の家族のことは良く知ってるけど、お嬢の家族のことは何も知らないんだよ」
「……確かに、」






助けてあげて欲しい、俺たちには何もできないから、という言葉をかける先がない。
連絡先も知らないし、会ったこともない。
いつだって、ひとりで前を向くAだけを見て来た。
誰にも染まらず、何にもなびかず、とにかく真っ直ぐに、凛としてそこに存在するAだけが俺の中の小鳥遊Aだった。
何も知らないんだな、と思う。
知った気になっていたけれど、俺の知ってるAは、俺たちが出会ったあの瞬間からの、一緒に歩んできた1年にも満たない期間だけだ。
それなのに、どうして何もかも教えてもらえるなんて都合よく思ったりしたのだろう。
俺たち、実は全然、距離を詰めれてなかったんだな。






『……ん、』
「A、起きた?」
『………ごめ、なさ、………い、』
「謝らなくて良いからさ、舘さんの出汁茶漬け食べよう」






ソファに寝ていたAは、静かに泣きながら首を振る。
どうしてだろう、と近寄ると、左足の膝関節が痛くて動けないと言う。
どう痛いのか聞こうと思ったけれど、あまりにも苦しそうに泣くものだから何も言えずに、ただ膝関節を撫でるだけに終わってしまった。
ソファ前のローテーブルに舘さんがお盆に乗せてお茶漬けを持ってくる。
寝起きでおそらく食欲がないであろうAの胃袋を考えたその量に、俺たちはAのことを何ひとつわかりはしないけれど、ちゃんと甘やかす準備だけは整えていて、いつでも手を伸ばせるところにいるのだと知る。






『迷惑かけて、ごめんなさい』
「ねえ、お嬢」
『……なあに?』
「お腹減ってる時は何考えてもうまく行かないよ」





だから、まずは少しでも良いから食べよう、と舘さんがスプーンにお茶漬けをすくってAの口元へと持って行った。
難しいことは何もわからない。
どうするのが最善かも、俺たちには分からないよ。
だけどさ、一緒に悩もう。
一緒に苦しもう。
痛みも辛さも全部、みんなで噛み締めよう。
そうやってこれからも乗り越えていこう。
たくさんの選択肢の中から最良の答えを必死で探しながら。

ひとりに慣れていた私から、ひとりが怖い私へ→←.



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小夜(プロフ) - 黒羽さん» 黒羽様、コメントありがとうございます。心を動かせるような文章を書きたい、と思っておりますので、いただいたコメント本当に嬉しいです。これからも更新を自分のペースで続けて参りますので、最後まで見届けていただけますと幸いです。本当にありがとうございました。 (5月7日 22時) (レス) id: 21e7727b2a (このIDを非表示/違反報告)
小夜(プロフ) - ういさん» うい様、コメントありがとうございます。お気に入りと言っていただけてとても嬉しいです。これからも自分のペースでお届けできればと思っておりますので、楽しんでいただければ幸いです。うい様もくれぐれもご自愛ください。本当にありがとうございました。 (5月7日 22時) (レス) id: 21e7727b2a (このIDを非表示/違反報告)
黒羽(プロフ) - 更新ありがとうございます。ボロボロ泣いてしまいました…。体調優れないようですね、、季節的なものも相まってしんどくなりますから、ご無理なさらずご自愛ください。♡ (2023年4月11日 22時) (レス) @page32 id: cbd5662403 (このIDを非表示/違反報告)
うい(プロフ) - 更新ありがとうございます!!とてもお気に入りの作品なので、更新嬉しいです!主様も体調にはお気をつけて無理せず更新頑張ってください!応援してます! (2023年4月10日 23時) (レス) @page32 id: ae901686b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:小夜 | 作成日時:2023年1月9日 8時

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