拝啓、あの日の君へ ２ 【Snow Man】

経験値の埋め合わせ方 ページ45

阿部side









努力を言葉にするのは恥ずかしい、と言うAから紡ぎ出された言葉が、あまりにもまっすぐ過ぎて、目を逸らしたくなる。
努力を言葉にする理由なんかは人それぞれだ。
褒められたら嬉しいから。
慰められたら元気になるから。
そんなのは努力じゃない、と本当は言ってほしいから。
その全ての言葉を欲しているから。
受け止める人がいるから成り立つ言葉にするという行為を、Aは今まで幾度となく俺たちにして来た。
そしてその度に、小鳥遊Aという女性の、圧倒的なエネルギーに打ちのめされる。
俺にはない、熱くたぎるようなエネルギー。
そんなものに翻弄される。






『本番まで、あと少しだ。頑張るよ』
「Aは人一倍、頑張ってる気がするけどね」
『それは仕方がないよ。みんなと私には圧倒的な経験値の差がある。それを埋めるには、言葉以上の頑張りと努力が必要だもん』
「それが出来るのがすごいんだって」






Aのこの努力の質・量の源は何なのだろう。
一生かかっても理解できる気がしない。
辿り着ける気がしない。
あのエネルギーが、いつかものすごく大きくなって、世界中を巻き込んだとしたら。
きっとAが今、とても気にしている「悪意」なんて消え失せてしまうに決まっている。
ただ、人はどれだけ力があると言っても、どうしたっていつか力尽きる。
休みが必要で、弱音を吐くことだって大事で、きっとそう言う時は涙を見せたっていい。
Aにはあるのだろうか。
そういう瞬間が。
そういう場所が。






『さっき言葉にしたら、みんな困ったように笑ってた』
「うん、」
『どうせ、痛みも苦しみもAが引き受ける必要なんてないのに、って思ってるんだろうなって思う。みんなといた時間があまりにも長すぎて、それくらいのことは分かっちゃう』
「……バレバレなの恥ずかしいな」






いいじゃん、バレバレで、わからないよりもずっと良い、とAが言う。
俺たちは今、レッスン室の真ん中で、ストレッチをしている。
あべちゃんはきっと、頭に全ての柔軟性を持っていかれたんだよ、とフォローしているつもりかもしれないけど、バカにしたようなことを呟くAは、さっきの自分の言葉とみんなの表情を相変わらず反芻しているようだった。
他のみんなは早々にレッスン室を後にしていて、俺は不安な部分の再確認、Aは有言実行とばかりに自主練をしていた。
追いつきたい、と思わせてしまっていたはずなのに、気付いたら、追いつきたい、と思ってしまう存在になっていたんだな、と柔軟をするAを見て思う。

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