11.誰も何も ページ11
「は？ え？」
今度は太宰が驚く番だった。
「な，んで？」
「私がそうして欲しいからです。
それじゃあ駄目ですか？」
「でもそれをしたら君は何処かに行って仕舞うのだろう？」
悲しそうに笑って彼女は云った。
「もう，何処にも行きません」
「本当かい？」
「私が一度でも貴方に嘘を吐きましたか？」
「いいや……。
わかった」
A，と，名前を呼び乍ら，太宰は腕を広げる。
ずぶ濡れで微笑むその姿は，飼い主に見つけられた野良犬みたいで，でももう野良犬じゃなくて……。
彼女が，太宰の腕の中に入る。
太宰の背中に手を回し，耳元で囁く。
「太宰さん，私，貴方の事が好きでした」
ピト
彼女の頬と，太宰の頬が触れる。
瞬間，彼女の躰が発光し始めた。
太宰が驚き，慌てて手を放そうとするが，彼女が背中に回した腕に力を込めている為離れられない。
「ありがとう。
そして，さようなら。
どうか……しあわせ，に……なっ……」
彼女の躰から力が抜ける。
支えきれずに太宰は地面に膝を着いた。
「A？」
目を閉じ動かなくなった彼女を見て，太宰の頭は瞬時に理解した。
彼女は，自分の15分だけ生き返る異能を，ずっと自分に使い続けていた，という事を。
そして，自分が触れた為に，彼女は本当に死んだ，という事も。
「ねえ，A！
起きて！
死なないでくれ!!」
「Aっ!!!」
雨が，世界を等しく濡らす。
「あ……」
彼女を顔を見た太宰が，小さく声を上げる。
彼女の顔は，余りにも穏やかで，嬉しそうで，太宰の幸せを願っている様に見えて。
太宰は彼女の隣に膝を落としたまま，顔を雨が降る空に向けて目を閉じた。
雨が涙の様に太宰の頬を伝い落ちる。
閉じた唇が小さく震えた。
彼女の言葉が，まだ耳に残っていた。
雨が降っている。
誰も何も云わなかった。
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SEA(プロフ) - 村人Cさん» コメントありがとうございます。全然更新してなくて本当に申し訳ないです……。頑張ります！ (__) (2023年2月10日 23時) (
レス) id: 40e007873e (このIDを非表示/違反報告)
村人C - 更新楽しみにしてます (2023年2月9日 22時) (レス) @page23 id: 5242a52298 (このIDを非表示/違反報告)
SEA(プロフ) - 南無いちさん» コメントありがとうございます。おかげさまでめっちゃ頑張れそうです笑 これからもよろしくお願いします！ (2022年12月27日 16時) (レス) id: 40e007873e (このIDを非表示/違反報告)
南無いち(プロフ) - 切ないのに甘くて最高です！！！if編も読めるなんて感激です！！更新楽しみです！！頑張って下さい！！ (2022年12月27日 16時) (レス) id: b659a75de8 (このIDを非表示/違反報告)
SEA(プロフ) - エリスさん» コメントありがとうございます。最近更新できていなくて申し訳ないです……。良いものが書けるよう頑張ります。 (2022年12月27日 12時) (レス) id: 40e007873e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：SEA | 作成日時：2022年11月26日 12時
