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四人とも揃って出した前菜は食べてくれたようで。
タイミングを見て自分で適当に見繕ったご飯をいくつかカウンターに並べる。
誰かのためにご飯つくるのって、幸せだなあ。
改めてそう思った。
大阪で、大将のお店で初めて思ったこと。
いつか、自分もこうやって誰かを笑顔にしたいと思った。
「お好きなの、好きに摘んでください。」
つぎ、何飲みますか?
稲田さんの横、河井さんに視線を移す。
「んー、ハイボールがええなあ」
ふわりと笑う顔に、胸がぎゅうと音を立てる。
これが俗に言う恋心なんだってことはわかっていた。
それでも、素直になりきれないのは、
いままであんまり人に言えるような恋愛してきたわけじゃない上に、前回がアレだし。
恋愛に対して、ずいぶん臆病になっているからで。
「わ、わたし…
ハイボールは、河井さんが作ったやつが、飲みたいです」
でも、臆病な自分のままでいたくなかった。
押し進められるままに入れてしまったビールのせいにして、
すこしふわりと定まらなくなった思考を、コントロール仕切れないまま伝えた。
「……、ほんなら、作ろーか」
少しこちらを見つめて考える素振りの後
カウンター越し、
備え付けの丸い回転椅子から流れるように降りた河井さんだけが、スローモーションに見える。
「そっち、行って…ええ?」
投げられた目線が熱く感じるのは、さっき飲んだビールのせい。
「どう、ぞ」
嬉しそうに細められた目。
少し覗く八重歯。
月明かりでは見えなかった、くしゃりとした笑顔。
カウンターの中に二人並んで。
何故かすぐそばにいる彼が、中腰で作り出したアルコール。
それを、手持ち無沙汰で見つめるわたしは、気持ちも自分も行き場がなくて。
「ほい」
「あ、わっ、」
差し出されたグラス。
あの夜が、脳裏を駆ける。
「溢れるから、はよ」
「ほら、溢れるから、はよ」
「飲んでみ、」
「………、おいし…」
「せやろー?俺のハイボールは店レベルやからな」
あー、こんな。
こんな顔で、笑ってたんだなあ。
「お店レベル、ですね」
「せやろ?」
ねえ、あなたもあの夜にいますか?
合わさった目線
2人だけの目配せ
きっとこれが、ここからが
恋の始まり。
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きゃめ(プロフ) - HanNAさん» わー!ありがとうございます!長々引っ張ったけど花火のシーズンに終われてよかったかなって思ったりします笑 りんご飴いいですよね!食べるたび妄想に使ってもらえたら嬉しいです^_^ (2021年8月17日 12時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
HanNA(プロフ) - きゃめちゃんおつかれさまでした…!リンゴ飴食べたくなっちゃいました☆ (2021年8月16日 18時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きゃめ | 作成日時:2020年10月14日 17時